美術館っていまいち楽しみ方が分からないもの。
実は美術館を楽しむために知っておくと良いのが絵画の見方や歴史などの豆知識です。
この記事では、美術館をより楽しむために知っておきたい絵画の見かたをご紹介します。
美術館の楽しみ方と絵の見方-美術館の魅力を最大限楽しむには
国内旅行でも海外旅行でも、何となく訪れたくなる美術館。
絵画の美しさに浸るというのもとても素敵な楽しみ方ですが、さらに面白く鑑賞するためには美術の豆知識を知っておくのがおすすめ。
ご自身で絵を描くという場合にはその技法などに注目するという方も多いと思いますが、この記事では、技法ではなく、西洋絵画を中心とした絵の背景に注目する見方をご紹介していきたいと思います。
西洋絵画は見方を知ると、何倍にもその面白さが膨らみます。
例えば、神話画は、それだけでとても美しく、時には迫力がある絵画ですが、神話の内容や描かれている場面についての知識があると、絵画をより楽しむことができるようになります。
この記事では、そんな絵画の楽しみ方について、神話画、宗教画、肖像画、静物画、風景画、印象派、風俗画の7つの分野に分けてご紹介します。
※西洋絵画を学ぶための本はこちら
西洋絵画の楽しみ方
西洋絵画の楽しみ方が分かると、美術館がこれまでよりも更に面白いものになります。
ここからは西洋絵画の見方、豆知識をご紹介します。
神話画
ギリシャ神話を主題として描かれた絵画「神話画」は、昔は宗教画と並んで「歴史画」という最も格式高いとされたジャンルの絵画です。
神話画はとても美しい絵画なのですが、実際に絵を前にすると、何のことが書かれているのか良く分からなかったり、こってりした画風に疲れてしまったりすることもある分野です。
この神話画の見方は、絵画を読むこと。
絵画を読むと言うのは、その絵画に描かれている場面を想像し、そのお話を頭の中で再生すること。絵を読むことで、絵が生き生きと見えてくるのですが、多くの場合、日本人にはギリシャ神話は馴染みが無いので、中々難しいです。私もギリシャ神話を知らないときは何の絵かさっぱり分かりませんでした。
※ギリシャ神話のあらすじの紹介はこちら
そんな中おすすめしたいのが、1つか2つ好きな主題を見つけて、その主題の絵を探しながら絵を楽しむと言う方法。
数ある神話の中でも特におすすめなのが『パリスの審判』です。
パリスの審判は、映画『トロイ』の舞台となったトロイア戦争の発端となった出来事のこと。
ある日、羊飼いパリスの目の前に空から林檎が降ってきて、目の前に3人の美しい女神が降り立ちます。最高位の女神ヘラ、戦いの女神アテナ、愛欲の女神アプロディテです。彼女たちは様々な褒美を用いてパリスに林檎を渡すように迫ります。
実はこの林檎は、天界の結婚披露宴に「最も美しい女神へ」と書かれて投げ込まれた林檎。この3人の女神は我こそが最も美しい女神だと、この林檎をほしがるのですが、全知全能の神ゼウスがこの林檎を地上界のパリスに委ねてしまったのです。
そして、林檎を受け取ったパリスは3人の女神の内の1人に林檎を渡します。この時のパリスの選択よって彼の母国トロイアはギリシャ軍との戦争に巻き込まれてしまうのです。
※神話画の見方の詳細はこちら
宗教画
宗教画は、その名の通り宗教について描かれた絵画。
西洋世界の主要宗教である宗教の経典『旧約聖書』と『新約聖書』の題材が絵画となっています。
宗教画と言うのは多くの場合、宗教を一般市民に視覚的に普及させると言うことが目的として描かれた絵画で、聖書の教えを絵画と言う形で説いています。
宗教画の見方も神話画と同じくその場面のお話を知り、その絵を探しながら美術館を回ると言うのがおすすめです。
宗教画の題材として一番美しくていいなと思うのが、『受胎告知』。
『受胎告知』とは、聖母マリアが未婚のままイエスを身ごもったことを大天使ガブリエルが伝えに来るシーンのこと。
マリアは赤と青の服を纏い、聖書(旧約聖書)を手にしており、そこにガブリエルが降り立った『受胎告知』の絵画は、描かれた年代や画家によって、静と動が異なっていたり、マリアが驚いていたり冷静だったり、ドラマチックだったり静寂だったりと、様々な表現が有り、見比べるのも楽しい作品。
上述のパリスの審判同様、西洋絵画の美術館であれば1つは必ずあると言っても過言ではないくらいメジャーな物語です。
※宗教画の見方の詳細はこちら
肖像画
肖像画は、主に王侯貴族の全身や上半身が描かれた絵画で、神話画、宗教画と並んで重要な絵画として位置づけられてきました。
肖像画も、その人物が誰かが分かれば一番楽しいのですが、ナポレオン、マリー・アントワネット、ヘンリー8世などの超有名人でない限り、その肖像画が誰なのかを判別するのはとても難しいというのが難点。
そんな難しい肖像画を楽しむ方法としておすすめなのが、インスタを見るように楽しむという方法です。
インスタって、その人が誰だか知らなくても、「素敵なファッションだな」とか、「この人の髪色綺麗」だとか、「美味しいそうなアイス」だとか、何故か見入ってしまいますよね。
同じように肖像画も、描かれている人のファッションや宝石、髪型などを時代ごとに見ていくと、すごく色々変わっていて面白いです。
また、「この人綺麗だな」とか、「ひげが立派だな」とか、そんな感じで気軽に絵画を楽しめるといいなと思います。
※肖像画の見方の詳細はこちら
静物画
静物画とは、絵画のカテゴリーの1つで、果物や花、グラス、お皿、獣肉などの動かない、静止した物を対象とした絵画のこと。
美術館に行くと必ずといっていいほど何点かは展示されている王道の絵画です。
そんな静物画ですが、個人的には美術館では2秒くらいで通り過ぎてしまうくらい、なんだかよく分からない分野だなと思います。
そんな静物画の楽しみ方は4つあります。まず、四季を楽しむこと、次に画家の技量を楽しむこと、儚さの寓意ヴァニタスを探す、そして変化するデザインを感じること、です。
詳しくは下記のリンクをご参照いただきたいのですが、この記事では、この4つの見方の中でも「四季を楽しむこと」を紹介したいと思います。
四季を楽しむといっても、日本画のように、四季の移ろいが描かれる、わびさびの世界ではありません。寧ろ、静物画の絵には多くの場合、四季の花や果物が全部いっぺんに盛り込まれています。
現在では、温室などの発達から、春夏秋冬、様々な花や果物を観賞したり頂いたりすることができますが、静物画が発展した17世紀には、季節のものは季節の間でしか楽しむことができませんでした。そんな中、購入者の要望に多かったのが様々な季節の花や果物を同じキャンパス内に描き、絵画で四季を堪能することだったのです。
静物画では、一つのキャンバスに、多様な四季が盛り込まれており、どんな四季が描かれているのかを探してみるのもとても楽しい見方だなと思います。
※静物画の見方の詳細はこちら
風景画
風景画の見方は、「心で見ること」。ここまで、神話画や宗教画では絵の中のストーリーを思い描いたり、肖像画ではインスタのように楽しんだり、静物画は四季を感じたりという見方をご紹介しましたが、風景画は心で見ることが一番です。
とは言え、少しでも風景画が興味深いものになるように、風景画の歴史を少しご紹介します。
実は、西欧諸国では長らく低い地位に位置づけられてきました。そのような中、風景画家たちは自身の絵画を少しでも「良いもの」にするために、風景画の中に神話の一場面を描き、『○○のある風景』などの作品が描かれるようになりました。例えば、『イカロスの墜落のある風景』がその代表的な作品です。
そんな不遇の時代をすごした風景画ですが、17世紀にオランダで人気を博し、少しずつ存在感を高めていきました。
19世紀前半はイギリスでターナーという画家が稀代の風景画家として活躍し、19世紀半ばにはフランスでバルビゾン派が台頭、19世紀後半から20世紀にかけては印象派という形でその価値が全世界に知れ渡ることとなったのです。
日本では古くから親しまれてきた風景画も、所変われば異なる歴史があり、そんな歴史を感じながら美術館で鑑賞してみるのも、面白いかなと思います。
※風景画の詳しい解説はこちら
印象派
心で楽しむと言えば、印象派も忘れてはいけません。
印象派は絵のカテゴリーではなく、絵の流派のようなものなのですが、日本でもとても人気なので、その成り立ちをご紹介したいと思います。
どのように誕生したかというと、実は、国立アカデミーと言うフランス画壇の権威が主催したサロン(官展)で落選した作品を集めた「落選展(Salon des Refusés)」がきっかけでした。
落選展は、1863年にパリで開催された美術展で、サロンが開催された会場の横で、このサロンで落選となって展示できなくなった作品を集めて開催されました。
この落選展には、後の印象派の画家として名を馳せた、マネ、モネ、ピサロ、ホイッスラーなどが参加し、革新的な作品が多く展示されました。近代美術史における革命的な出来事だったといえます。
落選展から10年ほど経った1874年4月、「画家、彫刻家、版画家などの美術家による共同出資会社第1回展」という美術展が開催されました。
この美術展にモネが出品した作品が、『印象日の出』という作品。この『印象日の出』はフランス北西部のル・アーブル港を描いた作品で、その淡い印象から当時の批評家ルイ・ルロワに「こんな絵はただの印象を描いたひどい作品、印象主義だ」と酷評されてしまいます。
そして、この酷評が世間の注目を引いたのをきっかけに、印象主義(印象派)としてこのグループが認知されるようになり、この美術展に出展した、エドガー・ドガ、カミーユ・ピサロ、オーギュスト・ルノワール、アルフレッド・シスレーなどの画家たちが印象派として活動するきっかけとなったのです。
※印象派についてはの詳しい解説はこちら
風俗画
美術館に行くと必ずといっていいほど展示してある、人々の日常を描いた風俗画。のんびりした風景や人々の飾らない姿が魅力の絵画です。
風俗画というのは、神話の一場面や特定の個人を書いた神話画や肖像画とは異なり、市井の人々の暮らしの一瞬を切り取った、いわば写真の様な絵と言える絵画です。
風俗画が発展したのはオランダ。
オランダは、1648年にオランダ独立戦争で勝利し、王制が廃止され、市民層が活躍する社会となりました。その為、他のヨーロッパ諸国とは異なり、早くから宗教画や神話画ではなく、市民に光を当てた風俗画が描かれていったのです。
これは、絵画の購入層が王侯貴族ではなく市民に移ったからであり、当時のオランダの民家には必ずと言って良いほど絵画が飾られていたそうです。 この様な経緯があり、オランダ人画家は風俗画で有名な画家が多く、例えばピーター・ブリューゲルやフェルメール はその代表格と言えます。
風俗画の面白いところは、昔の人々の暮らしを垣間見ることができるところ。飾らない暮らしを楽しむ人々の幸せそうな姿をみると自分まで幸せな気分になることができます。
美術館へ行った際は是非風俗画の前で昔の人々の暮らしに思いを馳せながら、アルバムをめくるように絵画を楽しんでみてください。
※風俗画についての解説はこちら
終わりに
この記事では、美術館の楽しみ方と西洋絵画の見かたをご紹介しました。
歴史画(神話画、宗教画)、肖像画、静物画、風景画、印象派、風俗画と、色々な絵画をこれまでとは少し異なった視点から見てみると、更なる魅力を発見できると思いますので、是非美術館で色々な見方を楽しんでみてください。
※世界三大美術館についてはこちら
※スペイン芸術についてはこちら