すみくにぼちぼち日記

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知れば100倍面白くなる美術館の見方(歴史画宗教編)-好きな主題を見つけるのが宗教画鑑賞のコツ

ヨーロッパの宗教が身近ではないという日本人も多い中、美術館の宗教画コーナーはいまいちピンとこないという方も多いはず。私もその中の1人なのですが、この宗教画、見方が分かると意外と面白いジャンルなのです。今回は日本人には馴染みのないテーマが多い宗教画について、「知れば100倍面白くなる」をテーマに絵画の見方を考えてみたいと思います。

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エス磔刑 エル・グレコ

 

知れば100倍面白くなる美術館の見方(歴史画宗教編)

ヨーロッパに行くと美術館から教会まで、宗教画と呼ばれる絵画を多く見る機会があります。日本人にはあまり馴染みのない宗教画ですが、宗教画を知るとヨーロッパやアメリカ、中南米など、キリスト教地域の良好が何倍も面白いものになるのです。

この記事では宗教画について、「好きな主題を見つける」をテーマに、特に受胎告知、サロメ、ホルフェルネスの首を切るユーディット、ダビデゴリアテ、アダムとイブ、スザンナと長老たち、ソロモンの審判の7つの主題について解説します。

是非、宗教画の中で好きな主題を見つけて、海外旅行ではその主題の絵画や彫刻を探してみてください。

 

宗教画は歴史画の1つ

ヨーロッパ美術でにおける宗教画というのは、旧約聖書新約聖書を題材にしたものが多く、カテゴリーとしては歴史画というくくりになります。歴史画は宗教画及び神話画のことを指し、印象派台頭まで、特にフランスを中心とした地域の美術界における最高ランクの絵画として多くの富裕層に親しまれてきました。

その中で、宗教画は富裕層の楽しみという枠を越え、教会が布教を行う中で使用されるツールの1つとしても用いられ、ヨーロッパの特にカトリックの世界で広く愛されてきました。

 

※もう一つの歴史画「神話画」はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

観る聖書・読む絵画

実は沢山の主題が存在し、1つ1つに物語が設定されている宗教画。聖書の中の物語が生き生きと描かれ、「観る聖書」と言っても過言ではない芸術作品です。

そもそも宗教画は昔の人々が布教や信仰のために用いた表現方法の1つであり、その絵画は観るものでもあり、さらに読むものでもあります。

反対に、絵画の表しているシーンが頭に入っていないと、その絵が何を言っているのかが分からないという側面もあり、難しいジャンルだと敬遠しがちだというのも否めません。 

※聖書について詳しく学ぶのにおすすめの本はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

好きな主題を見つける

そんなとっつきにくい宗教がですが、好きな主題を見つけるだけで、その面白さが何倍にも広がるジャンルでも有るのです。

ただ、宗教画では様々なテーマに沿った絵画が描かれていますが、キリスト教徒でない場合全部を覚えるのはとても大変。そこで、好きな主題を1つ2つ見つけ、その主題の作品を美術館の中で探し出すというというのがお勧めの鑑賞法です。

ここからは数ある宗教画の主題の中で、私が好きでお勧めしたいシーンが描かれているテーマをご紹介していきたいと思います。

 

受胎告知

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宗教画といえば、受胎告知。受胎告知とは、未婚のマリアに大天使ガブリエルがイエスの懐妊を伝えるシーン。キリスト教絵画の中でも特によく描かれる主題です。次の絵はスペインのエル・グレコが描いた受胎告知。グレコはマヌエリスムという独特な画風の画家で、劇的な雰囲気の宗教画をいくつも残しました。


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受胎告知では必ず赤と青でマリアが彩られており、傍に聖書(旧約聖書)が描かれています。このマリアにガブリエルが懐妊を伝えています。

 

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作品の描かれた時代、作品を描いた画家によって大きく雰囲気が異なる受胎告知。この雰囲気の違いや移り変わりを見比べるのも楽しいです。

 

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躍動感のある受胎告知から、静寂に包まれる受胎告知まで様々ですが、概して古い時代ほど静謐な雰囲気、時代を下れば下るほど生き生きとした雰囲気の絵になってくるかなと思います。

 

新約聖書に楽しく触れるならこちら

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サロメ

キリスト教には沢山の聖人が出てくるのですが、とても重要な聖人の一人に洗礼者ヨハネがいます。洗礼者ヨハネはイエスに洗礼を施した人物で、いわばイエスを見出した人ともいえます。こちらはレオナルド・ダビンチが描いた洗礼者ヨハネ

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洗礼者ヨハネ

 

この洗礼者ヨハネ、実は壮絶な最後を遂げます。その最後を描いた作品が「サロメ」です。サロメ新約聖書のお話。ユダヤの王ヘロデ王は実兄を殺害し、その妻を自分の妻とした人物。

ある日、王宮で宴が催されたのですが、その時ヘロデ王サロメに舞を踊るよう申しつけ、舞次第では何でも好きなものを与えると約束するのです。そして見事な舞を披露したサロメが所望したものが城内に閉じ込められていたヨハネの首でした。

何故サロメヨハネの首を所望したのかは諸説あるのですが、例えばヨハネに恋したが拒否されたサロメの復讐心とも、はたまた、ヘロデ王の不貞を指摘したヨハネに対する報復の為、サロメを母親が唆したとも言われています。

残念ながら写真が無いのですが、サロメの作品を見分けかたは、絵画に女性、男の首、おぼんの3点を探すこと。この3点が揃っていれば、ほぼ確実にサロメです。

 

ホルフェルネスの首を切るユーディット

ホルフェルネスの首を切るユーディットは旧約聖書のシーンを描いた作品。

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ユーディットは旧約聖書で大人気の主題。時は紀元前。アッシリアネブカドネザル王が自分に非協力な民族制圧のためにホロフェルネス将軍を派遣。ホロフェルネスに水攻めをされた町の指導者が降伏を決意します。しかしユーディットはあきらめず作戦を立てます。そしてある晩、その作戦を実行に。

まずユーディットがエルサレムへの道案内をホロフェルネスに申しでます。ホロフェルネスは絶世の美女の道案内を快く受け入れ道案内をさせます。4日目、敵陣中で耐え忍んでいたユーディットのもとへホロフェルネスから宴への誘いがあり、ユーディットは宴に参加。やがてホロフェルネスは泥酔し、ユーディットは彼と二人に。彼女は短剣をとりだし、ホロフェルネスの首を切り落とすのです。これで勢いづいたユダヤ人は巻き返し、ついにアッシリアに勝利することができました。この一連の物語がこの作品の主題です。

 

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ユーディット

今回掲載したこの絵は、ユーディットがホロフェルネスの首を切ったあとを描いている作品です。ユーディットの標準装備(アトリビュート)は男の首と剣(たまに侍女)。聖書の主題はキリストや聖母マリアが多いのですが、この主題はどの画家の絵を見ても画家の気迫が伝わってくるような力強さを感じる主題だなと思います。

 

ダビデゴリアテ

次に紹介するのはダビデゴリアテの物語。ダビデゴリアテの物語は旧約聖書に記されています。

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ダビデゴリアテ

昔々、イスラエルペリシテ人と戦争をしていた時、ペリシテ人の巨人ゴリアテが現れます。ゴリアテは言いました。「誰か俺と勝負しろ。俺が負けたらペリシテ人はお前たちに従ってやる。だが、俺が勝ったらイスラエル人は俺たちに従え。」イスラエル人は恐れ慄きます。そこで現れたのが羊飼いのダビデ。颯爽と現れ「俺が戦う」とゴリアテに近づいていきます。体の大きさはゴリアテが圧倒、戦歴も比べるに及びません。ゴリアテが向かってきたその時、ダビデは石を投げ、ゴリアテの額に命中。ゴリアテが怯んだ隙に、ゴリアテの剣を奪い、彼の首を取ったのです。

 

アダムとイブ

 こちらは「アダムとイブ」。

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アダムとイブ

アダムとイブの物語は日本人にも馴染み深い旧約聖書の物語です。エデンの園という楽園に生まれたアダムは神様から善悪の知識の実は食べてはいけないと命令されていました。しかしある日、蛇に唆されたイブが善悪の知識の実を食べてしまい、アダムも神様の言いつけに背いて食べてしまいます。この出来事により、羞恥の概念を知った二人は裸でいるのが恥ずかしくなり、イチジクの葉で腰を隠すようになったそうです。

 

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アダムとイブ

神はアダムが言いつけに背いたことに怒り、二人は楽園を追放され、労働や出産によって命をつないでいくこととなったのです。

 

 スザンナと長老たち

聖書のお話で好まれる主題がこちらの「スザンナと長老たち」。ある日、人妻スザンナが水浴びをしていると二人の長老が現れ、彼らとの関係を迫ります。スザンナが拒否すると、彼らは「スザンナが木下で男と密会をしていた」と嘘の告発。昔は不徳は厳罰であったため、スザンナは死刑を言い渡されのですが、そこにダニエルという青年が現れ、異を唱えます。ダニエルは長老たちを別々に尋問し、彼らの話の食い違いを指摘。これにより告発者である長老たちが処断され、美徳が勝利を収めることとなりました。

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印象派以前は実在する女性のヌードを描くことはタブーとされていました。したがって、この題材は「宗教画」という名目の下、ヌードを描くことができると言うこともあって人気の主題だったとも言われています。

 

ソロモンの審判

こちらは「ソロモンの審判」という作品。旧約聖書の中の物語。

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ソロモンが子どもを剣で切り裂けと命令している場面です。ソロモンは古代イスラエルの王で、そのソロモン王のもとに2人の女性が現れます。女性はどちらも母親ですが、一方の子どもが死んでしまい、亡くなった赤ちゃんの母親がこの子を自分の子だと主張するようになったのが事の発端。2人の母親はこの子を自分の子だと言い張り、ソロモンに審判を仰ぎました。ソロモンはどちらが本当のことを言っているのかを考える為、先の命令を下しました。すると、一方の母親は「その女性に与えるくらいなら子どもを殺して」と、もう一方の母親は「その女性に子どもを渡しても良いから子どもの命だけは助けて」と懇願しました。ソロモンは子どもの命を案じている母親が本当の母親だと判断し、事を収めることができました。

 

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終わりに

今回はヨーロッパの美術作品として、美術館では多く目にする宗教画について紹介しました。お気に入りの作品は見つかりましたでしょうか?

宗教画は日本人にはあまり馴染みのないジャンルの絵画ですが、是非様々な作品に触れて、興味のある題材に注目しながら、美術館賞を楽しんでみてください。

 尚、美術に関してもっと深く知りたいという方にお勧めなのが、中野京子さんの『怖い絵』シリーズです。私も大学生の頃中野京子さんの作品は全て読破したのですが、本当に面白くて、美術に興味がある場合にはお勧めの作家さんです。 

欲望の名画 (文春新書)

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静物画はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

※風俗画はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

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