すみくにぼちぼち日記

メキシコ生活や欧米旅行記、語学、大学、美術館について

知れば100倍面白くなる美術館の見方(肖像画編)-肖像画はインスタだ!ファッションや雰囲気を楽しむ

デートや海外旅行での定番スポットである美術館。美術館を訪れると必ずといっていいほど展示されているのが肖像画の数々。有名な人なのかなーとは思っても、知らない顔ばかり並んでいる肖像画エリアはついつい早足になってしまいます。

今回はそんななんとなく難しいイメージのある肖像画の楽しみ方について「知れば100倍面白くなる」をテーマに肖像画の楽しみ方をご紹介します。

ヴェルサイユ宮殿 肖像画群

 

 ※この記事は学術的な研究に基づく記事ではなく、個人の趣味の範囲で書かれています。

 

知れば100倍面白くなる美術館の見方(肖像画編)

ヴェルサイユ 肖像画群

美術館やお城、博物館など、ヨーロッパやアメリカを旅行すると多く目にするのが肖像画。よく知らない方々の顔が描かれた絵画は美術館などでは素通りしがちなのですが、実は、肖像画はとても面白い絵画なのです。

この記事では、肖像画について、インスタ感覚で見ること、ファッションの変遷を楽しむこと、歴史を感じること、時代に拠って変わる美術の雰囲気を楽しむこと、の4つを中心に、これ前でよりも肖像画が100倍楽しくなる見方をご紹介します。

 

肖像画は何故描かれたのか

ヘンリー8世肖像画 ティッセン・ボルネミッサ
肖像画の主人公は王侯貴族が殆ど。と言うのも、元々肖像画というのは画家がお金を稼ぐ手段として描いていた絵画で、その発注元は王族や貴族でした。王侯貴族は、私たち現代人が写真を取る感覚で自分や家族の肖像画を画家に依頼していました。

自分が楽しむために描かせた肖像画も存在しますが、政治的なプロパガンダを目的とした肖像画や結婚するためのお見合い写真のような感覚で描かれた肖像画もあります。

プロパガンダとして肖像画を利用した人物として有名なのが、イギリスの処女王エリザベス一世エリマキトカゲのような襟で有名)やフランスのマリーアントワネット。マリーアントワネットは家族の絵をヴィジェ・ルブランに描かせ、「国民の母」を演出していたと言われています。

f:id:k-heki:20190823001426j:plain

Vigée Le Brun(ヴェルサイユ宮殿蔵)

ナポレオンもプロパガンダの達人で、特に有名な絵画は馬にまたがり急峻な崖を登っている絵。絵では駿馬にまたがる颯爽としたイメージを演出していますが、実際は騾馬(ラバ)にまたがり慎重に進行したそうです(その絵がこちら)。

f:id:k-heki:20190823000256j:plain

Paul Delaroche(ルーブル美術館蔵)

お見合い用の肖像画を描かせた場合には、当然実物よりも「盛って」画家に描かせるために、実際に出会ったらお互いに別人のようだったということもあったようです。その代表作?がこちらのアン・オブ・クレーヴズの肖像画

f:id:k-heki:20190823004645j:plain

Hans Holbein(ルーブル美術館蔵)

アンはイギリス国教会を設立したことで有名はヘンリー8世(ブラッディ・メアリーと処女王エリザベス一世の父)の4番目の妃。

イギリスをカトリックからプロテスタントへ改宗したヘンリー8世の要望により、クロムウェルにより選出され、ホルバインという画家によって肖像画が描かれました。

ヘンリー8世は一目で気に入ったのですが、実物を見た途端にあまりのギャップに激怒しクロムウェルを処刑、ホルバインを追放してしまい、半年後にアンとも離婚してしまいました。

この一枚の絵画によって3人の人間の人生が大きく変わってしまったのです。ちなみに、ヘンリー8世は生涯で6人の妻を娶り、多くが悲惨な末路をたどっていることを考えると、離婚後に「王の妹」という称号を貰い余生を楽しんだアンはこの肖像画によって人生が好転したとも言えるかもしれません。

 

肖像画を100倍楽しむための豆知識

f:id:k-heki:20200103110034j:image

様々な目的のために描かれた肖像画ですが、その見方のコツが分かると、肖像画エリアも一段と面白いものになります。

 

肖像画はインスタだ

昔の人々は自分の姿や楽しかった思い出を残しておきたい、誰かに見てもらいたいと考えて、多くの王侯貴族が画家に肖像画を依頼していました。そんな肖像画ですが、見る側としてまず心に留めておきたいことは、肖像画はインスタだということです。

インスタって、例え投稿する人のことを良く知らなかったとしても、なんか観てるだけで面白いですよね。そんな感じで、「綺麗な人だなー」とか、「この人イケメン」とか、「赤ちゃん小さくて可愛い」などなどの観点から気楽に楽しめるのが肖像画です。

例えばこちらはヴィクターハンター作のオーストリア皇后エリーザベト(レプリカ)。絶世の美女と謳われたエリーザベトの美しさにただただうっとりするばかりです。このエリーザベトは見返り美人風の構図なので、エリーザベトとしてはこのドレスや髪型の横側から後ろにかけての装飾が気に入っていたのかなと思います。

f:id:k-heki:20190823010929j:plain

Franz Xaver Winterhalter(レプリカ)

そしてこちらはクリスティーナ・ロバートソン作のマリア・アレクサンドロヴナ。素敵なドレスだなーとか、この時代も犬を飼っていたんだなーとか、そんな他愛もないことを感じながら絵画を楽しみます。

f:id:k-heki:20190823011713j:plain

Cristina Robertson(エルミタージュ美術館蔵)

中でもインスタ映えする衝撃的な肖像画を残したのが「王の画家にして画家の王」と謳われたルーベンス。その代表作である「マリー・ド・メディシスの生涯」は肖像画の域を超えています。

マリー・ド・メディシスはフランスのアンリ4世の妻で、イタリア・フィレンツェの名門商家メディチ家出身の女性。彼女は莫大な財力をバックにあのルーベンス肖像画を依頼します。ですが、マリー・ド・メディシスはあまりお綺麗な方ではなく、依頼されたルーベンスも「似せて描くと怒られるし、嘘をつくのもな…」と困ってしまいます。そこで考え出したのが、「そうだ!マリー・ド・メディシスを神話の中に入れちゃおう!」という妙案でした。

出来上がった作品は、壮大な神話画の中にとても小さく顔が目立たない程度に(というよりもどれがマリーか分からないくらいに)マリー・ド・メディシスを描き込んだ、肖像画とは思えない肖像画。この絵こそが「インスタの写真をアプリで沢山加工してアップする」という現代の肖像画に繋がる源流だったのです(個人の見解です)。

※実物はルーブル美術館ルーベンスの間にありますので、是非実際に見てみてください。

 

絵にファッションの変遷を見る

モデルのファッションに注目するのも肖像画の楽しみ方のひとつ。例えば、エリザベス一世が着ていたエリマキトカゲのような襞襟(ひだえり)は、当時のヨーロッパでのトレンドでした。(1500年代後半)

f:id:k-heki:20190823013944j:plain

作者不明-オクスフォード大学

こちらは1600年代中旬に描かれた肖像画。襞襟がさらに大きくなっています。

f:id:k-heki:20190823014427j:plain

Johannes Corneliszoon Verspronck(ノートン・サイモン美術館蔵)

こちらのレンブラント作の肖像画の男性も襞襟着用。1600年台中旬の絵です。

f:id:k-heki:20190823014912j:plain

Rembrandt Harmenszoon van Rijn(ノートン・サイモン美術館)

こちらはマリーアントワネットの肖像画を多く描いたルブランが描いた肖像画。1700年代後半の絵画です。この時代になるとより現代に近い形のファッションになってきます。

f:id:k-heki:20190823031429j:plain

Marie Élisabeth-Louise Vigée Le Brun(ノートン・サイモン美術館蔵)

このように、 肖像画は当時のファッションを知ることができるファッション雑誌のような存在であり、鑑賞するときには、その時代にどんなファッションが流行ったのか、どんな髪形をしていたのかなどに注目してみると、肖像画が生き生きと見えてくるはずです。

 

※絵画で学ぶフランスの歴史はこちら 

名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語 (光文社新書)
 

 

悠久の歴史を感じる

肖像画歴史小説でもあります。肖像画に写る王侯貴族を見ながら、「この王様誰だろう?」と携帯で検索し、その時代背景を知りながら鑑賞するのも肖像画を楽しむコツです。

例えばこちらはスペインの巨匠ベラスケスの絵画。ベラスケスはスペインハプスブルク家の宮廷画家(王様に使える画家)で、ラス・メニーナスなど、多くの傑作を残しました。

f:id:k-heki:20190823013135j:plain

Diego Velázquez(ルーブル美術館蔵)

上の絵はスペイン王フェリペ4世の家族の絵。ハプスブルク家の特徴は受け口であること。ベラスケスの絵にはその特徴がしっかりと描かれています。

何故そんなに受け口が遺伝したのかと言うと、実は、ハプスブルク家が「青い血(純潔)」を守るため、近親結婚を繰り返したことが原因でした。中には伯父姪婚を行った例もあり、その血の濃さはすさまじく、その濃さのためか時代を下るにつれ病弱な家系となっていき、カルロス2世の死を最後に200年の歴史に幕を閉じました。

 

 ※ハプスブルク家に関する記事はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

絵画の変遷に時代を見る

時代によって変わりゆく絵画の変遷を見るのも楽しみの一つ。中でもここまで紹介してきた絵画から一気に作風が変わるのが1800年代に起こった印象派以降の絵画です。例えばこのゴッホの絵のように、昔とは筆のタッチが変わったというのも変化の1つ。

f:id:k-heki:20190823034905j:plain

Vincent Willem van Gogh(ノートン・サイモン美術館蔵)

そして何より変わったのが描かれる対象です。印象派が台頭するまでのヨーロッパは一部の地域を除き絵画は王侯貴族のものでした。したがって一般市民が絵の対象となることはありませんでした。

しかし、時代が下り、市民が主役となると、購買層が市民に移り、様々なテーマの絵画が描かれるようになったのです。例えばゴーギャンの「タヒチの女」やルノワールのヌード画など新しい絵画が次々と描かれるようになりました。

f:id:k-heki:20190823035633j:plain

Eugène Henri Paul Gauguin(ノートン・サイモン美術館蔵)

こちらはルノワールのヌード画。印象派台頭の少し前まで、ヌード画は「神話」もしくは「聖書」の題材(実際の風景ではない、想像の世界)を書くことで許されていたジャンルで、実在する人物のヌードを書くのはタブー中のタブーでした(そのため、ヴィーナスなど、裸の女神様は格好の題材だったのです)。

f:id:k-heki:20190823040110j:plain

Pierre-Auguste Renoir(ノートン・サイモン美術館蔵)

バレエで有名なドガ。人々の生の一瞬を切り取る画家でした。

市井の人々やバレリーナなどが描かれ始めたのも印象派が台頭してきてから。特に絵の具の発達により外で色付けができるようになったことが大きく寄与しています。

それまでは暗いアトリエの中で色の原料となる植物や虫を磨り潰しながら絵の具を作っていたのですが、この時代からチューブ入り絵の具が普及し始め、アトリエから開放されて絵を描くことができるようになりました。

f:id:k-heki:20190823040541j:plain

Hilaire Germain Edgar de Gas(ノートン・サイモン美術館)

そして最終的には「絵の概念」さえもが変わっていったのです。

f:id:k-heki:20190823040833j:plain

Amedeo Clemente Modigliani(ノートン・サイモン美術館蔵)

これまでの注文主が気に入る作品を制作する時代から、自分が好きな絵を描いて表現する時代へと変化していきました。

f:id:k-heki:20190823041202j:plain

Pablo Picasso(ノートン・サイモン美術館蔵)

ピカソの絵は肖像画を超えた肖像画といえると思います。

 

ピカソを知るならこちら

暗幕のゲルニカ(新潮文庫)

暗幕のゲルニカ(新潮文庫)

 

 

終わりに

f:id:k-heki:20200103105953j:image

今回は普段美術館でも素通りしてしまいがちな肖像画について、「知れば100倍面白くなる」をテーマに美術館の見方について考えてみました。美術館で肖像画を見つけた際には、是非、インスタを見る感覚で気軽に肖像画を楽しんでみてください。

 

静物画を楽しむ豆知識はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

※風俗画の紹介はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

 ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村