長らく神話の中の出来事だと語り継がれていましたが、歴史家シュリーマンによって実際に起こった史実だった可能性が提示された戦争でもあります。
この記事では神話と歴史の狭間に存在する「トロイア戦争」をご紹介します。
- トロイア戦争のあらすじ 神話と史実-パリスの審判, トロイの木馬の伝説やアキレウス, ヘクトルなどの英雄も紹介
- 前夜-ゼウスの気まぐれ
- パリスの審判
- トロイア戦争の始まり
- トロイの木馬
- アイネイアスのローマ建国
- トロイア戦争を知るためにおすすめな本や映画
- 終わりに
トロイア戦争のあらすじ 神話と史実-パリスの審判, トロイの木馬の伝説やアキレウス, ヘクトルなどの英雄も紹介
ギリシャ神話で語り継がれる戦争の中でも特に有名な戦いに、ティターノマキアー、ギガントマキアー、テュポーンとの戦い、そしてトロイア戦争があります。
この4つの戦争の中で唯一人間同士の争いに神々が介入したのがトロイア戦争です。
トロイア戦争は長らく神話の話だといわれていたのですが、1871-1873年に歴史家シュリーマン主導のもと行われた本格的な発掘でトロイアの遺跡が発見され、史実だったのではと、言われるようになった伝説的な戦争です。
トロイア戦争はトロイア軍対ギリシャ軍の戦争であり、最終的にギリシャの知将オデュッセウスによって考え出された「トロイの木馬」によってトロイアが滅亡し、その長い争いに終止符が打たれたのです。
※ギリシャ神話の戦争の歴史はこちら
前夜-ゼウスの気まぐれ
ティターノマキアー、ギガントマキアー、テュポーンとの戦いと多くの決戦を経験したオリュンポスの神々ですが、テュポーンとの戦い後、長い平和が訪れました。
しかしある時、人間界の人口が増えすぎたと感じたゼウスは、人間同士争わせることを思いつきます。
程なくして天界で、女神テティスと人間の英雄ペレウス(アキレウスの両親)の結婚式が執り行われました。結婚を祝う宴席には全ての神が招かれたのですが、不和の女神エリスだけは招かれなかったといいます。
実はこれはゼウスの策略だったのです。
宴の席に招かれなかった不和の女神エリスは怒り、結婚式に「最も美しい女神へ」と書かれた黄金の林檎を投げ入れました。そのリンゴを見た3人の女神ヘラ、アテナ、アプロディテが「我こそが最も美しい女神だ」とこの林檎を欲しがります。
そしてゼウスは林檎を誰に渡すのかの判断を、地上で羊飼いに育てられてたトロイアの王子パリスへと委ねてしまったのです。
ちなみに、パリスが何故羊飼いに育てられていたかと言うと、パリスが生まれたとき、母ヘカベの夢を占った夢占いで「この子が災厄をもたらす」と出たため、王国から離れたところで育てられました。
そんなパリスのもとに落ちてきた林檎。パリスがそれを手に取ると、3人の女神が姿を現しました。
パリスの審判
パリスの前に現れた女神はヘラ、アテナ、アプロディテの3柱。
ヘラはゼウスの姉であり妻。最高位の女神です。ヘラはパリスにリンゴをヘラに渡した場合その褒美として「栄光」を与えると約束しました。
ゼウスの子であり守護の女神のアテナは、パリスに「戦いへの勝利」を、愛欲の女神であるアプロディテは「世界で最も美しい女性」を差し出すから林檎を渡してほしいとパリスに迫ったのです。
パリスは悩みに悩んで?最終的に世界で最も美しい女性を約束したアプロディテを選びました。
このパリスの選択によって、アプロディテは喜び、絶世の美女との婚姻を約束したのです。ただ、この選択がヘラとアテナの怒りを買ったことは忘れてはなりません。このパリスの下した決断「パリスの審判」が一国の将来を左右することになろうとはこの時のパリスは知る由もありませんでした。
※3人の女神たちとオリュンポスの神々の解説はこちら
絶世の美女ヘレネの略奪
パリスは、パリスの審判後、ひょんなことから実家であるトロイアに戻ることとなります。
ただ、いっこうに絶世の美女が目の前に姿を現すことはありませんでした。
そんなおり、海の向こう、ギリシャのスパルタ王メラネオスの王妃がとても美しいという噂がパリスの耳に入り、パリスは「アプロディテが約束した絶世の美女は彼女ではないか」と考えるようになり、ある日、スパルタへ王妃ヘレネを略奪しに行ってしまったのです。
ヘレネはスパルタ王妃だったレダの娘。レダはある日白鳥に化けたゼウスと結ばれ卵を産みました。その卵から生まれたのが絶世の美女ヘレネ。
彼女が成長し結婚相手を決めるときには、あまりの美しさにギリシャ中から求婚者が集まったと言います。
ヘレネの義父テュンダレオスは、彼らの中の誰を結婚相手に選んでも、それ以外の男たちの恨みを買う恐れがあるということで、あらかじめ「誰が選ばれるにしても、その男が困難な状況に陥った場合には、全員がその男を助ける」という約束をさせ、最終的にメラネオスを選んだのです。
さて、そんな絶世の美女ヘレネですが、目の前に降り立ったパリスに一目惚れ。略奪にきたパリスと一緒にスパルタを後に、トロイアへと旅立ってしまいます。
トロイア戦争の始まり
ヘレネがトロイアの王子パリスに略奪されたと知り怒ったスパルタ王メラネオスは結婚時の約束通り、かつてのヘレネの求婚者たちに呼びかけ、軍を組織。
兄のミケーネ王アガメムノンを総大将としてギリシャ軍がトロイア王国に攻め込んだのです。
トロイア陣営
パリスのヘレネ略奪がきっかけで勃発したトロイア戦争。トロイア側の面々の中でも特に有名な登場人物をご紹介します。
-パリスの兄であり次期国王。トロイア随一の剣豪であったがアキレウスとの決闘に敗れる。
パリス
ヘカベ
ラオコーン
-トロイの木馬を見破ったがポセイドンの策略により悲惨な最期を遂げた。
カッサンドラ
-トロイ滅亡を予言したがアポロンの呪いで信じてもらえなかった。
-トロイア戦争を生き延びてローマ建国の祖となった。
トロイアに味方した神々
-羊飼いの守護神にして光明の神。
アルテミス
-アポロンの双子の月の女神。狩猟を司る。
アレス
-戦場での狂乱と破壊を表している神。
アプロディテ
-愛欲の女神。パリスにヘレネを与え戦争のきっかけを作った。
ギリシャ陣営
メラネオス
-スパルタ王でヘレネの夫。
-ミケーネ王。メラネオスの兄でありギリシャ軍の総大将。
小アイアス
-ロクリスの民の王。アキレウスに次ぐ俊足。トロイアのカッサンドラを凌辱しようし、アテナの怒りを買い、トロイア戦争後、最終的にポセイドンによって溺死させられた。
知将。トロイの木馬を考案した。トロイア戦争後長く険しい旅を強いられ、その旅について綴られた「オデュッセイア」の主人公。
-トロイアのヘクトルを討った人物。母テティスにより冥府を流れる川につけられ不死身となったが、テティスが握っていた足首だけ不死身とならず急所となった。アキレス腱の語源。
ギリシャに味方した神々
ヘラ
-最高位の女神。
アテナ
-都市の守護女神。
ポセイドン
-海と地震を司る神。
※神々が持つ武器一覧と能力はこちら
トロイの木馬
トロイア戦争は10年の長きにわたり続きました。
しかしに10年目に差し掛かったある日、ギリシャの知将オデュッセウスが巨大な木馬を造り、その内部に兵を潜ませるという作戦を考案。これを実行しました。
夜、トロイアの外にいたはずのギリシャ軍はもぬけの殻となっており、代わりに大きな木馬が置いてありました。トロイア軍はギリシャ軍敗走した証だと思い、木馬を城内に引き入れようします。
トロイアの神官ラオコーンと王女カッサンドラが見抜いたのですが、ラオコーンはポセイドンの策略で海蛇に絞め殺され(上の写真)、カッサンドラの予言は誰も信じることができませんでした。
なぜカッサンドラの予言が信じてもらえなかったのかというと、実はカッサンドラには未来を見通せる能力と、それを誰からも信じてもらえなくなる呪いの両方をアポロンからかけられていたのです。
トロイア戦争前のある日、トロイアの王女であるカッサンドラ(パリスの姉)に一目惚れしたアポロンは、予言の能力を与える代わりに自分を受け入れることを求めます。
カッサンドラはそれを受け入れるのですが、予言の能力を得た瞬間、アポロンから弄ばれたあと捨てられることを予言。そのまま逃げてしまいました。アポロンは怒り、カッサンドラの予言を誰も信じなくなる呪いをかけたのです。
さて、場外に放置された木馬を見たトロイア軍は戦利品だと浮き足立ち、木馬を城に引き入れたのですが、そこでカッサンドラが「木馬の中にギリシャ兵が潜んでいる、木馬を引き入れたらトロイアは滅亡する」と予言。
しかし、アポロンの呪いにより誰もカッサンドラの言うことを信じません。
トロイア軍は木馬を引き入れ、その晩、木馬の中に潜んでいたギリシャ兵に門を開けられ、そこに攻め込んだギリシャ兵の大群によってトロイアは滅亡してしまったのです。
アイネイアスのローマ建国
実は生き残った王子がいました。名前はアイネイアス。アイネイアスはトロイア王の血を引くアンキセスと女神アプロディテの子どもです。
アイネイアスは命からがらトロイアを脱出し、当てのない旅に出ます。様々な場所を点々とするのですが、途中でゼウスからイタリアに渡りトロイアを再建するようお告げが下ります。
アイネイアスはイタリアの地にたどり着き、そこで古代ローマの礎を築きました。その後のローマの繁栄はご存じの通り。トロイアの血はローマ帝国を通して長い歴史の中を生き抜いたのです。
※アイネイアスが建国したローマのその後はこちら
トロイア戦争を知るためにおすすめな本や映画
最後に、トロイア戦争をより深く知るためにおすすめな本や映画をご紹介します。
『ホメロスを楽しむために』
ギリシャ神話は主に①世界創生、②神々の戦争、③神々と人間の戦争、という順番で物語が進みます。
この3つの流れの最後の部分③神々と人間の戦争 について詳しく説明しているのが、ホメロスを題材とした『ホメロスを楽しむために』です。
『イリアス』、『オデュッセイア』という歴史家ホメロスの作品を分かりやすく説明してくれている本で、トロイア戦争の外観を知るためにとてもおすすめな一冊です。
『新トロイア物語』
トロイア戦争の10年目、その最後の50日間を記した叙述史がホメロス作の『イリアス』。このトロイア戦争について、小説の形式で描かれた作品が『新トロイア物語』です。
この小説の特徴は、神話的なお話を解説しながらも、より現実的に通説を分析しており、現実味のある小説に仕上げているところ。
そして、トロイア戦争後にアイネイアスがローマにたどり着き、ローマを建国するところまでを描いている、正に阿刀田高さんによる『新トロイア物語』です。
『名画の謎 ギリシャ神話篇』
ギリシャ神話はどういう物語かを分かりやすく解説しているのが中野京子さんの『名画の謎 ギリシャ神話篇』です。
この本はギリシャ神話を主題とした絵画を見ながら、その絵画で描かれているエピソードを紹介している本。フルカラーで見やすく、中野京子さんのユーモア溢れる解説がとても面白い本です。
トロイア戦争にスポットが当てられた本ではないのですが、ギリシャ神話の神々にまつわるエピソードを楽しむことができるので、トロイア戦争のサイドストーリーのような感じで楽しむのがおすすめ。
『トロイ』
トロイア戦争を映像で楽しむことができるのが映画『トロイ』。
私がギリシャ神話に興味を持つようになったきっかけともいえるこの作品、特にヘクトルとアキレウスの戦いの様子は圧巻。アイネイアスが戦火を逃れるシーンも描かれているなど、ギリシャ神話の細部にまで拘った作品でもあります。
迫力ある映像と当時の雰囲気、高いストーリー性やエンターテイメント性を味わえるこの作品は、ギリシャ神話の知識が無くても楽しむことができます。
また、今回の記事でご紹介した人物などを知っていると、より深く物語に没入できるかなと思います。
トロイア戦争を映像で楽しむのであれば映画『トロイ』が一番おすすめです。
※ギリシャ神話を学べるおすすめな本一覧はこちら
終わりに
この記事では、ギリシャ神話の中でも特に有名な戦いである「トロイア戦争」をご紹介しました。
トロイア戦争はゼウスが意図的に起こした戦争であり、パリスの審判によってトロイア滅亡に舵が切らてしまいました。
戦争の前後には様々なエピソードがあり、ギリシャ神話の中でも特に面白い時代のお話でもあります。
史実と神話の狭間で揺れるトロイア戦争は、知れば知るほどロマンを感じる、そんな不思議なギリシャ神話です。
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