ピカソで有名なキュビズムとマティスのフォービズムは、芸術に変化をもたらしたムーブメントとして知られています。
一方で、この二つの名前はは聞いたことがあるけれど、どのような芸術なのかまでは深く知らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、そんなキュビズムとフォービズムについて、その特徴や二つの芸術の違いをご紹介します。
キュビズムとフォービズムの違いとは-構成と形態の革命と色彩の革命
キュビズムは、パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって創始された芸術の大きなムーブメントで、描く対象物を様々な視点から観察し、四方八方からの視点を絵の中に落とし込むという技法です。
フォービズムは、目に映る色彩ではなく、心に映る色彩を表現した技法。特に原色を多用する激しい色彩が多く使用され、「あたかも野獣(フォーヴ、fauves)の檻の中にいるようだ」と評されたことから、この名前が付きました。
キュビズムとは構成と形態の革命
キュビズムは、直訳すると「立方体主義」と訳すことができる単語。
その名前の通り、目で見たものを立方体、つまり三次元で捉えなおし、一つの視点ではなく、色々な視点でから観察した形を、一つの画面に描き込む技法です。
具体的には、絵を描くとき、対象を正面から見たところ、右側から見たところ、左から見たところ、後ろから見たところ、下から見たところ、上から見たところなど、様々な方向から観察し、それを平面のキャンバスに表現する、という手法です。
一つの絵の中に様々な視点から見た対象物が描かれるということで、非常に特徴的で、変わった雰囲気の絵画で、鑑賞者の記憶に残る作品が多く存在します。
キュビズムはパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって創始され、様々な作品が生み出されました。
キュビズムの代表例として、ピカソの『アビニヨンの娘たち』や『ゲルニカ』が挙げられます。
キュビズムへのポール・セザンヌの影響
キュビズムの対象を立体で捉えるという試みへは実はポール・セザンヌという画家の発想が大きな影響を与えたと言われています。
りんごの絵で有名なセザンヌは、ポール・ゴーギャン、フィンセント・ファン・ゴッホと並んで3大ポスト印象派の1人です。
これまでの「どれだけリアルな表現で描けるか」という視点から脱した大胆な構図と色彩で表現したのが特徴の画家で、「自然を円筒、球、円錐によって扱う」というセザンヌの言葉は、後のキュビスムにも影響を与えた言葉として知られています。
※印象派の紹介記事はこちら
キュビズムへの浮世絵の影響
キュビズムに浮世絵が直接的に影響を与えたという主張は残念ながら見つけ出すことができなかったのですが、キュビズムに影響を与えたポール・セザンヌは浮世絵の構図を自身の絵画にも取り入れるなど、浮世絵を愛した画家のひとりです。
印象派以前の西洋絵画は、目で見えるものを忠実に再現することを目標にする絵画で、遠近法などを用いてよりリアルな絵画を目指しました。
一方で日本から西洋諸国へ輸出された浮世絵は大胆な構図や色合いが特徴的な絵画で、西洋美術の世界に、新しい風を吹き込んだと言われています。
例えば、葛飾北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』は、浮世絵の中でも特に有名な波の絵ですが、その現実では起こり得ない構図(波が目の前にあり、画家の立ち位置が分からない)が西洋の画家たちが絵画に対して持っていた固定概念を変化させていったと言われています。
ポール・セザンヌが描いた『サント=ヴィクトワール山と大きな松の木』という絵画は、日本の絵画のような構図の絵画であり、このような、これまでの常識を覆す新しい絵画の誕生には日本の美術の影響が少なからずあったのではないかと言われているのです。
このように浮世絵は、直接キュビズムを変化させることはなかったとしても、当時の印象派の画家やポール・セザンヌなどを通して、キュビズムの画家たちに影響を与えていたのではないかなと思います。
有名な画家
キュビズムの画家は多く存在するのですが、キュビズムを代表する特に有名な画家はパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックのふたり。キュビズムの発案者であり、代表者です。
特にピカソは多くの作品を残しており、世界中の美術館でピカソの絵を鑑賞することができます。
※ピカソを堪能できるティッセン・ボルネミッサ美術館はこちら
フォービズムは色彩の革命
キュビズムが「構成と形態の革命」と呼ばれるのに対し、フォービズムは「色彩の革命」と呼ばれています。
フォービズムを主導した代表的な画家がアンリ・マティスやアンドレ・ドランで、彼らはギュスターヴ・モローの指導の下大成した画家たちです。
ギュスターヴ・モローは、『オルフェウスの首を抱くトラキアの娘』や『刺青のサロメ』など、非常にドラマティックな雰囲気の作品を多く遺しています。
フォービズムの特徴は、キュビズムのように構図を様々な視点から捉えなおす、といった理論的なものではなく、心に映る色彩や感覚を重視した、明るい強烈な色彩でのびのびとした雰囲気の絵画です。
フォービズムに影響を与えた画家
キュビズム影響を与えた画家として、ポール・セザンヌをご紹介しましたが、フォービズムに影響を与えた画家も存在するそうです。
その代表的な例が後期印象派のポール・ゴーギャンとフィンセント・ファン・ゴッホ、点描画が有名なジョルジュ・スーラやポール・シニャックといった画家たちでした。
そして、あのポール・セザンヌもフォービズムに影響を与えた画家の一人なのです。
そう考えると、ポール・セザンヌはキュビズムにも、フォービズムにも大きな影響を与えた人物ということで、本当にすごい画家だったのだなと改めて感じました。
有名な画家
アンリ・マティス、ジョルジュ・ルオー、アンドレ・ドランなどの画家がフォービズムの画家として知られています。
特にマティスは有名で、フォービズムといえばマティスというくらい、フォービズムのイメージが強い画家です。
終わりに
この記事では、キュビズムとフォービズムについてそれぞれどの様なものなのか、その特徴や2つのムーブメントの違いについてご紹介しました。
構成と形態の革命「キュビズム」と色彩の革命「フォービズム」はどちらもとても独創的で見ていて面白い芸術ですので、是非注目してみてください。
※神話画を楽しく見る見方はこちら