ギリシャ神話は古代ギリシャ時代から伝承される物語で、現在でも映画や小説、ゲーム、アニメ、漫画でギリシャ神話をモチーフにしたお話やキャラクターが登場するなど、生活に深く根付いています。
西洋絵画や芸術にも頻繁に登場するギリシャ神話は西洋文化を知る上でも知っておくと助けになる知識でもあります。
そんなギリシャ神話ですが、なんとなく神様の名前は知っているけど、実際にどのような神話なのかは良く分からないという方も多いのではないでしょうか。
この記事ではそんなギリシャ神話のあらすじを、特に戦争の歴史を辿りながらご紹介したいと思います。
※尚、この記事は様々な説を組み合わせて一つの流れとして紹介しています。
- ギリシャ神話のあらすじと戦争の歴史
- ガイアの誕生-カオスからガイアが生まれる
- ウラノスの政権-ガイアが生んだウラノスの治世
- クロノスの統治-ウラノスの子クロノスの治世
- ティターノマキアー-オリュンポスの神々対クロノスの大戦
- ゼウスの時代-様々なエピソードが生まれたゼウスの治世
- ギガントマキアー-オリュンポスの神々対ギガンテス軍
- テュポーンとの戦い
- トロイア戦争-神々が介入したギリシャ対トロイアの戦争
- ローマ建国-トロイアの王子アイネイアスが行き着く先に
- 終わりに
ギリシャ神話のあらすじと戦争の歴史
ギリシャ神話は芸術のテーマとなったり、ゲーム、漫画、アニメなどのキャラクターになったりと、私たち現代人にとっても身近な存在として語り継がれている伝承です。
絵画などで目にする神話の神々は主に最高神ゼウスを中心とした物語の登場人物が多いのですが、ギリシャ神話は実は大きく9つの時代に分けることができます。
全ての始まり「カオスからのガイア誕生」、「ウラノスの治世」、「クロノスの治世」と続きます。
そして、ゼウスたちオリュンポスの神々vsクロノス率いる巨人族ティターンの戦い「ティターノマキアー」が起こります。
ティターノマキアーでゼウスたちが勝利し、「ゼウスの治世」となります。
ゼウス治世下で巨人ギガンテスとオリュンポスの神々が戦った「ギガントマキアー」
巨人との最期の戦い「テュポーンとの戦い」
神々による人間を介した戦争「トロイア戦争」
そして「ローマの建国」です。
この記事ではそんなギリシャ神話の神々の歴史を特に戦争を軸に時系列でご紹介します。
ガイアの誕生-カオスからガイアが生まれる
ギリシャ神話と言うと、絵画の題材になったり、聞いたことがあるエピソードがあったりするのですが、何処から始まってどうやって終わるのかというところは良く分からないところです。
実は「終わり」と言うのは明確には決まっていないのですが、物語の「始まり」は存在します。
まず、世界にはカオスがありました。カオスは世界の始まりであり、ギリシャ神話の全ての神々の祖です。カオスは言ってみれば空隙であり、存在するものが存在するための場所でした。絵で言うとカンバスのようなものでしょうか。
カオスから生まれたのがタルタロス、エロス(アプロディテの子という説もある)、そしてガイアです。
タルタロスはその後冥界よりも更に下の地中奥深くにある奈落、つまりは地獄そのものとなります。
ガイアは世界そのものであり、原初の地母神、オリュンポスの神々や人間もまたガイアの血を引く存在だと言います。
ガイアの最初の子の誕生
ガイアは、自分の力だけで天の神ウラノス、海の神ポントス、暗黒の神エレボスを生みます(ここでエロスが生まれた説もある)。
愛の神エロスの仲介により、ガイアとウラノスが結婚することなり、ウラノスの時代が始まりました。
ウラノスの政権-ガイアが生んだウラノスの治世
ガイアから生まれガイアと結婚したウラノスは天の神として神々を束ねる存在となります。ウラノス政権の誕生です。
ガイアとウラノスの間にはティターン一族という巨人の神が生まれました。
男の神であるオケアノス、コイオス、ヒュペリオン、クレイオス、イアペトス、そして末子クロノス。
女の神であるテテュス、レア、テミス、ムネモシュネ、ポイベ、ディオーネ、テイアです。
また、異形の神(醜い神)であるヘカトンケイル、キュクロプスもガイアから生まれるのですが、あまりの醜さにウラノスが彼らを冥界タルタロスへ閉じ込めてしまいます。
それに怒ったガイアは、ティターン一族に復習を呼びかけ、男の神クロノスがその呼びかけに答え、ウラノスの性器を切り落とし、ウラノスに替わる神々の王となったのです。
しかし、ウラノスは去り際に、クロノスへ「お前も自分の子どもに王位を追われる」と予言。クロノスはその言葉の呪縛に生涯苦しめられるのです。
尚、クロノスによって切り落とされたウラノスの性器にまとわりついた泡から愛欲の女神アプロディテが生まれたとも言われています。上の写真は泡から生まれたアプロディテ『ミロのヴィーナス』です。
クロノスの統治-ウラノスの子クロノスの治世
ガイアとの間に生まれた異形の子どもたちをタルタロスへ追いやったウラノス。ウラノスの性器にまとわりついた泡から生まれたのがアプロディテだったのですが、切り取られたときに滴った血がガイアと交わり生まれたのがギガンテスでした。
ウラノスを倒し世界の王となったクロノスはギガンテスをタルタロス(奈落=地獄)へ幽閉してしまいます。
クロノスは王座についた後、同じくガイアとウラノスから生まれたレアと結婚。二人の間にデメテルという女神が生まれました。
しかしクロノスは自分が倒した父王であるウラノスの「お前も自分の子どもに王位を追われる」という予言を信じ、生まれた直後にデメテルを食べてしまったのです。
その後、ヘスティア、ヘラという女神、ハデス、ポセイドンという男神が生まれたのですが、立て続けに食らいました。
クロノスの妻であるレアは、最後の子どもであるゼウスだけは助けたいと、生んだ直後にクロノスに石を飲ませ、クレタ島の牝山羊アマルテイアに育てさせました。
ゼウスたち兄弟によるクロノスの廃位
すくすく育ったゼウスはある日父クロノスをだまし神酒ネクタルを飲ませ、兄弟たちを吐き出させることに成功。この時、飲み込まれた順序と逆のポセイドン、ハデス、ヘラ、ヘスティア、デメテルという順に吐き出され、彼らは力を合わせクロノスと戦い、ついにクロノスを廃位させることに成功したのです。
ティターノマキアー-オリュンポスの神々対クロノスの大戦
クロノスから王位を奪ったゼウスたち兄弟はクロノスと巨人ティターン族との決戦に臨みました。
ゼウスたちはオリュンポス山に、クロノスたちはオトリュス山に布陣します。
この戦いは10年間続き、世界が震えるほどの規模でした。しかし、10年続いても戦いは終わらず決着がつきませんでした。
そんな時、ガイアがゼウスたちに、ガイアとウラノスの異形の子でありウラノスがタルタロスに幽閉したヘカトンケイル、キュクロプスの存在を教え、ゼウスたちがタルタロスにいる彼らを解放。また、ウラノスの性器がクロノスによって切り取られたときにその血とガイアが交じって生まれたギガンテス(クロノスによって幽閉されていた)をも開放し、味方につけることに成功しました。
キュクロプスたちは解放の礼として、ゼウスには万物を破壊し燃やし尽くす「雷霆」、ポセイドーンには大海と大陸を支配する「三叉の矛」、ハデスには姿を見えなくすることのできる「隠れ帽」を与え、それらの武器を駆使したゼウスたちが見事勝利を収めたのです。
ゼウスの時代-様々なエピソードが生まれたゼウスの治世
ティターノマキアーに勝利したゼウスたちは世界を統べることとなります。
生まれた直後にクロノスに飲み込まれたゼウスの兄弟ですが、本来なら生まれた順で偉くなるのが常なのですが、ゼウスが兄弟を助けたときに飲み込まれた順番と逆の順番でクロノスから吐き出されたため順序が逆転。ゼウスが最高神となり、ヘラが最高の女神となります。
ゼウスが最高神であり全知全能の神、ポセイドンは海の神、ハデスは冥界神、ヘラは最高位の女神、ヘスティアは家庭の神、デメテルは豊穣の神となりました。
西洋絵画でよく登場するギリシャ神話のエピソードが沢山生まれたのがこのゼウスの時代でした。
ゼウスはこの時代に精力的に活動し、沢山の子を成しました。ゼウスの兄弟であるポセイドン、ハデス、ヘラ、ヘスティア、デメテルと、ゼウスの子アテナ、アポロン、アプロディテ(ウラノスの性器から生まれたとも)、アレス、アルテミス、ヘパイストス、ヘルメス、ペルセポネたちが組み合わされて、「オリュンポス十二神」と呼ばれます。
※オリュンポスの神々についてはこちら
ゼウス統治下でのエピソード
ゼウス時代に起こったエピソードとしては、例えばヴィーナスがアドニスと恋に落ちたり、エロスとプシュケの禁断の恋があったり、アポロンがダフネに振られたり、ハデスがペルセポネを冥界に連れ去ったりといったお話があります。
また、ギリシャ神話の英雄と呼ばれる人々の活躍もこの時代です。
12の難行を成し遂げしギガントマキアーでも活躍したヘラクレス、メデューサを倒したペルセウス、アルゴー船でコルキスの金羊毛を探索したイアソン、妻を捜しに冥界に降り立ったオルフェウスなど、有名なエピソードが沢山生まれました。
※神話のエピソードと絵画についてはこちら
ギガントマキアー-オリュンポスの神々対ギガンテス軍
大戦ティターノマキアーの後、ゼウスの治世の下つかの間の平和を享受していたギリシャ神話の世界でしたが、今度はギガントマキアーという戦争が始まります。
ギガントマキアーは、ゼウスがティターン一族をタルタロスへ幽閉したことに憤慨したガイア(ガイアはティターン一族の母)が、今度はギガンテス(クロノスに切られたウラノスの血とガイアが交わって生まれた)にティターン一族の救出を頼んだことを発端として勃発した戦争です。
ティターノマキアーではガイアはギガンテスをタルタロスへ幽閉したクロノスが許せずティターン一族と戦うゼウスに味方していますから、ゼウスとしては今回のガイアの怒りは理解できなかったことでしょう。
私としてはガイアはすべての者の母なる存在なので、子どもたち全員に幸せになってほしいと願っていたのかなと思います。
さて、そんな感じで始まったギガントマキアーですが、ギガンテスには人間の力を借りなければ勝利できないとのお告げが下ります。
そこで、ゼウスは人間であるアルクメネと交わり、半神の英雄ヘラクレスが誕生します。
オリュンポスの神々がギガンテスに深手を負わせ、ヘラクレスが止めを刺すという方法で、オリュンポスの神々がギガントマキアーでの勝利を手にすることとなったのです。
テュポーンとの戦い
ギガントマキアに勝利したオリュンポスの神々ですが、地母神ガイアは子どもたちを軒並み倒してしまったゼウスたちに一矢を報いるべく、タルタロス(奈落・地獄)との間にテュポーンという巨人を産みます。
「巨体は星々と頭が摩するほどで、その腕は伸ばせば世界の東西の涯にも達した」というくらい大きかったテュポーン。地球の直径が12,742kmですから、両手を伸ばした大きさは10,000kmを超える大きさです。
テュポーンは史上唯一ゼウスを破った神でもあります。テュポーンとオリュンポスの神々との戦いは長く続きました。
ある日、ゼウスがテュポーンをシリアのカシオス山へ追い詰めます。しかし、そこでテュポーンがカウンター。ゼウスを捕らえて、デルポイ近くのコーリュキオン洞窟へ閉じ込めてしまいます。これがゼウスにとって最初で最後の敗北となりました。
しかし、隙を見て駆けつけたヘルメスとパンによってゼウスは助けられ、最終的にゼウスたちがテュポーンに勝利することができたのです。
尚、テュポーンはエギドナと結婚し、オルトロス、ケルベロス、ヒュドラー、キマイラなどの沢山の怪物の父となりました。
※オリュンポス十二神の武器一覧はこちら
トロイア戦争-神々が介入したギリシャ対トロイアの戦争
ティターノマキアー、ギガントマキアー、テュポーンとの戦いと多くの決戦を経験したオリュンポスの神々ですが、テュポーンとの戦い後、長い平和が訪れました。
しかしある時、人間界の人口が増えすぎたと感じたゼウスは、人間同士争わせることを思いつきます。
程なくして天界で、女神テティスと人間の英雄ペレウス(アキレウスの両親)の結婚式が執り行われました。結婚を祝う宴席には全ての神が招かれたのですが、不和の女神エリスだけは招かれなかったといいます。これはゼウスの策略だったのです。
エリスは怒り、結婚式に「最も美しい女神へ」と書かれた黄金の林檎を投げ入れました。そこで3人の女神ヘラ、アテナ、アプロディテが互いにこの林檎を欲しがります。
ゼウスは誰に林檎を渡すのかの判断を、地上で羊飼いに育てられてたトロイアの王子パリスへと委ねてしまいます。
ちなみに、パリスが何故羊飼いに育てられていたかと言うと、パリスが生まれたとき、母ヘカベの夢を占った夢占いで「この子が災厄をもたらす」と出たため、王国から離れたところで育てられました。
そんなパリスのもとに落ちてきた林檎。パリスがそれを手に取ると、3人の女神が姿を現しました。
ヘラは「栄光」、アテナは「勝利」、アプロディテは「最も美しい女性」を差し出すから林檎を渡してほしいとパリスに迫り、パリスはアプロディテを選びました。
そして、お礼としてアプロディテがパリスに差し出した女性こそが敵国スパルタの王妃ヘレネでした。パリスはヘレネを略奪し、怒ったスパルタ王メラネオスと兄のミケーネ王アガメムノンがトロイア王国に攻め込んだのです。
トロイア戦争は9年の歳月を経て多くの人間が亡くなりました。
そして実はあのオリュンポスの神々もギリシャ側とトロイア側に分かれて戦ったといいます。
ギリシャ側にはヴィーナスに美の審判で負けたヘラ、アテナとゼウスの兄弟で海の神ポセイドンが、トロイア側にはアポロン、アルテミス、アレス、アプロディテが味方しました。
戦争が長びき10年目に差し掛かったある日、ギリシャの知将オデュッセウスは、巨大な木馬を造り、その内部に兵を潜ませるという作戦を考案。これを実行しました。
夜、トロイアの外にいたはずのギリシャ軍はもぬけの殻となっており、代わりに大きな木馬が置いてありました。トロイア軍は敗走した証だと思い、木馬を城内に引き入れようします。
トロイアの神官ラオコーンと王女カッサンドラが見抜いたのですが、ラオコーンはポセイドンの策略で海蛇に絞め殺され(上の写真)、カッサンドラの予言はアポロンの呪いにより誰も信じることができませんでした。
トロイア軍は、トロイの木馬を城内に引き入れてしまい、夜、ギリシャ軍が木馬の中から城内に侵入し、門の鍵を開き、押し寄せたギリシャ軍の大軍により、トロイアは一夜で陥落したのです。
ローマ建国-トロイアの王子アイネイアスが行き着く先に
ギリシャによって一夜で陥落したトロイア。実は生き残った王子がいました。名前はアイネイアス。アイネイアスはトロイア王の血を引くアンキセスと女神アプロディテの子どもです。
アイネイアスは命からがらトロイアを脱出し、当てのない旅に出ます。様々な場所を点々とするのですが、途中でゼウスからイタリアに渡りトロイアを再建するようお告げが下ります。
アイネイアスはイタリアの地にたどり着き、そこで古代ローマの礎を築いたのです。
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終わりに
この記事では、ギリシャ神話の始まり「ガイアの誕生」から、ウラノスの時代、クロノスの時代、ティターノマキアー、ゼウスの時代、ギガントマキアー、テュポーンとの戦い、トロイア戦争、アイネイアスの旅までの物語をご紹介しました。
ギリシャ神話では、神話的要素の強い世界創生期は神々の世界、時代が下り人間の英雄が出てくるなど、段々と当時の情勢と結びついた神話が作られていったように思います。
また、長い間神話だと言われていたトロイア戦争も、19世紀末、歴史家ハインリヒ・シュリーマンにより行われたトロイア一帯の調査で遺跡が発掘され、実は本当の出来事だったのではないかとの見方が示されるようになりました。
神話の魅力もさることながら、それが今の時代に繋がっているかもしれないと考えると、ロマンを感じるお話だなと思います。
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