絵画といえば印象派といっても過言ではないくらい世界中で人気な印象派。美しい色彩と幻想的な雰囲気が魅力の絵画です。
見るものを虜にしてしまう不思議な力を持つ印象派ですが、実はその誕生の裏には壮大なドラマがありました。
この記事では「美しい印象派絵画をもっともっと楽しむ」をテーマに、知れば100倍面白くなる印象派の見方をご紹介します。
知れば100倍面白くなる美術館の見方(印象派編)-印象派は伝統を超えた新しい絵画
印象派というジャンルは実はとても新しい芸術で、印象派の画家たちが活躍した時期は19世紀の後半でした。
もともと西洋絵画というのは、歴史画(神話・聖書)、肖像画、静物画、風俗画/風景画というようにその価値が定められており、歴史画は崇高な芸術、風景画は歴史画や肖像画に劣るというような区分がありました。
中でもフランスでは権威あるアカデミー主催のサロンに認められなければ画家としての価値を担保することができなかったため、自分の目指す芸術がサロンに認められずに苦しい生活を送る画家が多くいたのです。
そんな中、これまでの枠組みにとらわれることなく画家活動を行おうとしたグループが印象派でした。いわば印象派は伝統を超えた新しい絵画グループだったといえます。
上の絵はスペインにあるティッセン・ボルネミッサ美術館所蔵のベルト・モリゾの作品。このような型にはまらない、画家の表現したいことを絵に描けるようになったきっかけを作ったのは実は印象派だったのです。
印象派の歴史
新しい画家のグループである印象派ですが、どのように誕生したかというと、実はアカデミー主催のサロン(官展)で落選した作品を集めた落選展(Salon des Refusés)がきっかけでした。
落選展は、1863年にパリで開催された美術展で、サロンが開催された会場の横で、このサロンで落選となって展示できなくなった作品を集めて開催された美術展でした。
この落選展は、後の印象派の画家として名を馳せた、マネ、モネ、ピサロ、ホイッスラーなどが参加し、革新的な作品が展示された、近代美術の革命的な出来事だったといえます。
マネの出品作品『草上の昼食』は、当時タブーとされた裸体の女性の日常風景を描いているということで一大スキャンダルとなりました。当時は実在する人物(ギリシャ神話や聖書以外)の女性の裸体を描くことはタブーとされており、マネの作品が世間に与えた衝撃は計り知れないほどだったそうです。
画家、彫刻家、版画家などの美術家による共同出資会社第1回展
落選展から10年ほど経った1874年4月、「画家、彫刻家、版画家などの美術家による共同出資会社第1回展」という美術展が開催されました。
この美術展にモネが出品した作品が、『印象日の出』という作品。この『印象日の出』はフランス北西部のル・アーブル港を描いた作品で、その淡い印象から当時の批評家ルイ・ルロワに「こんな絵はただの印象を描いたひどい作品、印象主義だ」と酷評されてしまいます。
ただ、この酷評が世間の注目を引いたのをきっかけに、印象主義(印象派)としてこのグループが認知されるようになり、この美術展に出展した、エドガー・ドガ、カミーユ・ピサロ、オーギュスト・ルノワール、アルフレッド・シスレーなどの画家たちが印象派として活動するきっかけとなったのです。
ちなみに、上の絵は、エルミタージュ美術館所蔵のモネの作品です。
印象派とジャポニズム
印象派の画家たちに大きな影響を与えた日本芸術。特にその大胆な構図は当時ヨーロッパの画家たちに大きな衝撃を与えました。
当時のヨーロッパでは、遠近法を用いて現実を忠実に表現することが是とされており、日本の浮世離れした構図や、平たい表現方法は革命的な価値観の転換だったのです。
こちらの絵はロダン美術館所蔵の『タンギー爺さん』。作者ゴッホはポスト印象派の画家として知られる画家で、印象派の中でも特にジャポニズムに興味を持った画家でした。
この絵と同じように画中画として浮世絵を取り入れた作品として、モネの『ラ・ジャポネーズ』、マネの『エミュール・ゾラの肖像』、ホイッスラーの『陶器の国の姫君』などが描かれました。
※ロダン美術館はこちら
印象派は心で楽しむ
絵画の世界に革命的な価値観の転換を巻き起こした印象派は、絵画を「読むもの」から「感じるもの」へと変化させました。
19世紀の芸術は国の権威であるアカデミーが歴史画を重んじたため、絵画は基本的には神話や聖書の主題があってその主題を読み解くというような教養が必要な芸術でした。しかし、若い芸術家たちがキャンバスを手に屋外で美しい光や風景を描いたこの運動によって、「画家の描きたいものを描く」というスタイルが確立され、当時の芸術鑑賞にも大きな変化をもたらしたのです。
印象派の絵画の鑑賞では難しい知識などは必要とされず、心の赴くままに絵画を鑑賞することができ、色使いの鮮やかさや美しい雰囲気を堪能できる絵画なのです。
代表的な印象派画家
激動の歴史をたどった印象派ですが、印象派の画家として多くの画家が作品を残しています。ここではそんな印象派の画家をご紹介します。
エドゥアール・マネ
マネは落選展でスキャンダルとなった作品『草上の昼食』を描いた画家。他の印象派画家よりも少し年上で、印象派の先駆者として知られる画家です。
先駆者という立場として前衛的な作品を数多く残したマネですが、実はサロンへの応募も続けた画家で、印象派とサロンのどちらも大切にした画家でした。
クロード・モネ
印象派の名前のもととなった作品『印象日の出』を描いた画家。
印象派の画家として日本でもとても有名画家で、彼が描いた『睡蓮』は印象派を代表するような作品です。
こちらの絵はヒューストン美術館所蔵の『睡蓮』。モネは生涯に数多くの睡蓮の絵を残しました。
実は睡蓮以外にも多くの絵を描いているモネ。こちらはサンディエゴ美術館所蔵の風景画。ジャポニズムの影響を受けた『ラ・ジャポネーズ』や妻のカミーユをモデルとさいた作品も描きました。
※サンディエゴ美術館詳細はこちら
エドガー・ドガ
エドガー・ドガ。フランスを代表する画家の一人。印象派が活躍した1800年代中盤から1900年代始めまで活躍した画家で、睡蓮で有名なモネ、先駆者マネ、ヒマワリのゴッホ、甘美なルノワールなど、あまりにも有名な彼らとともに時代を生きた画家です。そんなドガの代名詞がこちらの絵はサンディエゴ美術館所蔵の絵画にも描かれている「バレリーナ」。
ドガは一瞬を切り取る画家として活躍。その一瞬のモデルとなったのが疾走する馬であり、舞台上そして日常のバレリーナでした。
ドガは美しい舞台上のバレリーナだけでなく、練習風景や日常風景などを多く描きました。オスロ国立美術館のこちらの絵も舞うバレリーナではなく、バレリーナの日常風景を描いています。
舞台上でバレリーナが舞う『エトワール』が有名なドガですが、一瞬を切り取る画家として舞台裏までもを愛した画家でした。
ロサンゼルスのノートン・サイモン美術館ではドガのコレクションが館内いっぱいに展示されておりドガを堪能することができます。
※ノートン・サイモン美術館詳細はこちら
メアリー・カサット
カサットはアメリカ出身の画家で、アメリカ人として唯一の、そしてモリゾと並んで女性の印象派画家です。ドガと親しく、日本画から影響を受けた作品も発表しています。
実は、現在の印象派人気、印象派が世界中で愛されているのは、カサットのお陰といっても過言では無いのです。
というのも、当時、フランスでは印象派は邪道と思われ、評価されていなかったのですが、カサットがアメリカの資産家へ印象派を紹介するようになったところ、アメリカで人気に火がつき、それを機に本国フランスでも認められるようになっていきました。
そういう経緯もあり、アメリカの美術館は多くの印象派絵画を所有するに至っています。こちらの絵もヒューストン美術館所蔵の作品です。
※ヒューストン美術館詳細はこちら
ベルト・モリゾ
こちらはサンディエゴ美術館のベルト・モリゾの作品。モリゾはマネの弟と結婚した画家で、印象派の中ではメアリー・カサットと並ぶ女流画家。
印象派と言うのは、元々フランス画壇の権威であった国立芸術アカデミーが主催する「サロン・ド・パリ」と呼ばれる展覧会で入賞できなかった画家たちが集まって作ったアートカテゴリーですが、その印象派の中でも異彩を放っていたのがモリゾです。
モリゾは第一回印象派展が開催される前年の1873年まで6回もサロン・ド・パリに入選しており(作品が飾られており)、謂わば当時の主流であった国立芸術アカデミーからも認められる存在でした。
画家と言うのは職業ですから、国立芸術アカデミーに認められる実力であれば、正統派であるアカデミー風の作品を作り続ければ安泰であったのにも関わらず、第一回印象派展開催から印象派の画家としての道を歩み始めたのです。
上の絵はノートン・サイモン美術館所蔵の作品。
オーギュスト・ルノワール
ルノワールは甘美な画風が特徴的な印象派を代表するフランス人画家です。
ムーラン・ド・ラ・ギャレットの絵画など、美しくも可愛らしい、明るい絵を多く残しています。こちらはオスロ国立美術館の作品です。
ルーブル美術館ではルノワールの作品の中でも特に有名なこちらの絵を鑑賞することができます。
フィンセント・ファン・ゴッホ
ポスト印象派の代表的な画家ゴッホ。ひまわりの絵が特に有名な画家です。生前は評価されずに厳しい人生を歩んだゴッホ。くっきりとした独特な色使いが印象的な画家です。
ジャポニズムの影響を強く受けた画家でもあり、『タンギー爺さん』では浮世絵の画中画を描いています。
こちらはノートン・サイモン美術館所蔵の作品です。
ポール・ゴーギャン
ノートン・サイモン美術館のゴーギャンの作品。明るい色合いが印象的な画家。一時期ゴッホと共同生活を送ったこともあります。
晩年はタヒチ島に渡り、現地の人々を描いてすごしました。
ポール・セザンヌ
りんごの絵でお馴染みのセザンヌ。ポール・ゴーギャン、フィンセント・ファン・ゴッホと並んで3大ポスト印象派の1人です。
静物画を、これまでの「どれだけリアルな表現で描けるか」という視点から脱した大胆な構図と色彩で表現したのが特徴の画家で、その後のキュビズムの画家たちに多大な影響を与えました。
終わりに
この記事では、「知れば100倍面白くなる」をテーマに印象派についてご紹介しました。
西洋絵画の歴史に革命を起こしたといっても過言ではない印象派。
美しい色合いや柔らかな表現が魅力的で、こころから美しい絵画を楽しむことができるのが印象派の作品ですので、日本で印象派展などが開催された時にはぜひ美術館を訪れてみてください。
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