すみくにぼちぼち日記

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母語教育の必要性と英語学習-外国語は母語を超えない

外国語を学習していると必ず言われることが、「学習して学んだ言語は母語のレベルを超えない」と言うことです。そのため、母語能力を鍛えることが外国語のレベルアップには不可欠だと言われています。

今回は外国語学習と母語についてご紹介します。

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母語教育の必要性と英語学習-外国語は母語を超えない

外国語を学ぶとき、また、教えるときに注意しなければならないことの一つに「外国語が母語を超えることはない」というものがあります。

外国語と言うのは、第二言語ですから、基本的に母語(母国語)で考えたり話したり出来ない概念以上のことを表現することは出来ないといわれています。

従って、外国語能力を高めるために一番必要なことは、自分の知識を増やし、母語で考える思考能力を高めることであると言えるのです。

 

特定分野の語彙レベルで外国語が上回ることは可能

以前、「ある経済学者が海外で経済学を学んだために経済学の知識は外国語で頭に入っていると聞いたがそれは外国語が母語を上回っているのではないか」と尋ねられたことがあります。

確かに、アメリカで経済学を学べば経済用語は英語で頭に入りますし、ドイツで医学を学べば医学の語彙はドイツ語で頭に入ります。

しかし、語彙ベースでの言語能力の逆転は個人の言語能力全体として外国語の方が母語を上回ったことにはならないのです。

というのも、日本語を母語としているのであれば、普段頭を使う時の軸の言葉は日本語となります。ですから、ある特定の分野について話す際に一時的に外国語が頭に現れたとして、その言い方を母語では分からない場合でも、その知らない概念を日本語で頭に入れることで日本語でも100%理解ができます。

一方で、日本語で理解できている難しい概念を外国語で100%理解することは、外国語学習者には極めて難しいと言えます。

 

母語学習の重要性

国語学習者にとって、そのレベルを100%引き上げるのは極めて難しいのですが、そこに近づけることは可能です。外国語能力の天井は母語の天井には届かないため、いかに母語の天井を引き上げるかが外国語能力を向上させる鍵となります。

母語学習とは、文法や発音面のことだけではなく、母語で学習するコンテンツ、外国語で学習したコンテンツを母語に落とし込むことも含みます。つまり、言語能力とはそのまま自分がこれまでに学習したものとイコールとなります。

ちなみに、学習という言葉で表しましたが、勉強に限りません。アニメや漫画、スポーツのこと、はたまた政治経済、アートや音楽、食べ物や料理など、日常生活で分野問わず身につけたことが全て言語能力と言い換えることができます。

 

外国語と触れる年齢およびその後の環境によっては逆転もあり得る

特殊な環境で育った場合には言語能力の逆転が起こる可能性もあります。

例えば幼少期は中国で育った中国語母語話者が日本に来て中国語を全て忘れることもありますし、逆に日本人でも日本語をわすれることもあります。ですから、母語を形成する言語形成期前期(0歳から9歳)、言語形成期(9歳から13歳)の母語教育がとても重要です。

言語学の世界では、言語形成にはコミュニティで話される言葉が大きく影響することが知られており、子供の母語は上記の時期に子供が属するコミュニティの言語に大きく影響されてしまうのです。

例えば、両親が関東人なのに京都に住んでいると子供が京都弁になるのは、家庭内の言語よりもコミュニティ内の言語の方が子供への影響が大きいことを示しています。

したがって、海外など特殊な環境で子供を育てる場合には、意識して母語教育を行う必要があるのです。

愛知県には日系ブラジル人やペルー人の世帯が多く存在しますが、母語学習の不足により、両親(ポルトガル語スペイン語話者)と子供(日本語話者)の間での意思疎通に支障をきたしている例も多くあります。一方で、家庭内での母語教育をしっかり行なっている家庭では子供はバイリンガルとなり、国公立大学へ進学するケースも存在するのです。

この例からも特殊環境での母語レベルの維持には家庭内での教育が不可欠だということがわかります。

また、親子間での意思疎通に支障が出るという問題が起こらないようにするためには、自治体や教育現場などで意図的にコミュニティを形成してあげるなどの対応が重要です。例えば、海外における日本人学校はコミュニティとして日本語を使用する環境が整っている好例です。

 

「国語は苦手だけど英語は得意」はあり得るのか

中高生くらいの年齢では国語は苦手だけど英語は得意という生徒も沢山います。これは一見母語よりも外国語ができるように見えてしまいますが、実はそうではなく、単純に中高レベルの国語はかなり高次元であるのに対し、英語は海外の幼稚園から小学生レベルであるからと言えます。

この場合、日本語が苦手というよりは英語と日本語を公平に比べられるレベルに英語が達していないということであり、英語に関してまだまだレベルアップの余地ありということなのです。

ちなみに、言語学習の観点から見ると、文学よりも文法が好きだから英語の方が国語より得意だというケースもあります。この場合は、国語より英語が得意なのではなく、文学よりも文法が得意だということです。つまり、国語においても文学を読む学習よりも言語学(文法や音韻や言語の成り立ちを学ぶ)に触れてみると、国語が得意になるかもしれません。

言語学の世界はこちら

日本語の「は」と「が」の違いって?-新情報、旧情報の概念を用いて説明する - すみくにぼちぼち日記

 

終わりに

如何だったでしょうか。今回は外国語学習と母語の関係についてみてみました。

国語学習には母語学習が必須だということ、また、言語形成にはコミュニティが大きな影響を与えることかわかりました。

外国語を学ぶことは自分の母語や文化をまなぶこと。是非みなさんも外国語や母語、そして言葉を学ぶことで得ることのできる様々な「学び」を楽しんでみてください。

 

セミリンガルについての記事はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

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