すみくにぼちぼち日記

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ゆとり教育は成功していた-PISA 2018から見るゆとり教育と脱ゆとり教育 ゆとり世代は日本の失敗作ではない

ゆとり教育という言葉にどのようなイメージを持っていますか?学力が下がっただとか、円周率が3などのイメージを持つ方が多くいるかと思います。しかし、結論から言うと、ゆとり教育とは、大成功を収め、日本の学力が過去最高になった教育方法、言わば日本が目指すべき教育の姿です。

ゆとり教育とは所謂ゆとり世代が受けてきた教育で、日本の学力が下がった元凶として捉えられることが多い学習指導要領の改変に基づいた教育のこと。2003に実施されたPISAという、15歳の生徒を対象に経済協力開発機構が3年おきに実施する国際学習到達度調査で、読解力8位から14位と急落した結果が元となり強烈に批判されました。このことからゆとり教育=失敗、ゆとり教育は円周率を3で教える教育、ゆとり教育を受けた世代はレベルが低いなど、極端なイメージがメディアを通じて世間に流布されていったのです。

一方で、2019年12月4日に、2018年度に実施されたPISAの結果が開示され、読解力が15位と過去最低を記録。このテストを受けた世代は脱ゆとり教育を小学2年から中学3年まで受けてきた世代。つまり、この結果から、脱ゆとり教育ゆとり教育を超える大失敗だったということがわかるのです。これからは脱ゆとり世代が社会に出てくる時代に入りますので、そんな脱ゆとり世代の取り扱いには十分に注意する必要がありそうです。

と、短絡的な結論に至らぬように、今回はゆとり教育が本当に失敗だったのかを過去のPISA結果を見ながら考え、PISAの結果を引き合いに特定の世代を失敗だとか成功だとか安易に断じてしまっても良いのかを考えてみたいと思います。 

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ゆとり教育は成功していた

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まず最初にお話するのは、ゆとり教育は成功してたということ。と言うのも、PISAの結果を調べていくと、ゆとり世代の成績が、他の世代、つまりゆとり教育前の世代よりも、また、脱ゆとり教育世代よりも明らかに良い成績を残しているのです。

この記事では主にPISA2000, 2003,2012,2015,2018の結果を参考に、ゆとり教育の成功について解説します。

 

ゆとり世代とはだれ?

ゆとり教育を受けた世代=ゆとり世代というイメージは間違っていませんが、ゆとり世代が第一世代、第二世代に分かれているのはご存知でしょうか。

第一世代は、1980年度施行の、ゆとりと充実を掲げた学習指導要領に準じた教育を受けた世代で、1966年4月2日~1987年4月1日生まれの方が当てはまるそうです。

第二世代は、2002年度に施行された、学校週5日制において教育を受けた世代で、1987年4月2日 ~2004年4月1日生まれの方が当てはまることになります。

私も調べてみて意外だったのですが、第一世代から含めるとかなり幅広い年齢層の方々がゆとり教育を受けていることになります。この二世代に渡るゆとり世代の中でも、第二世代が世間一般で批判の対象となる所謂ゆとり世代です。

この記事では上述の第一世代、第二世代の内、第二世代のゆとり教育を対象に考察を行います。

 

PISA 2003の結果はゆとり教育の弊害か-メディアに踊らされた私達

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PISA 2003の結果がゆとり教育を批判する材料となったと述べましたが、そもそもこのPISAを受けた世代はゆとり世代ではありません

ただまずはメディアの批判の検証のために2000年実施分と結果を比べてみましょう。

PISA 2000年(32の国と地域)とPISA2003の比較と考察

PISA2000 (32の国と地域)

数学的応用力:1位

科学的応用力:2位

読解力:8位

PISA2003(41の国と地域)

数学的応用力:6位

科学的応用力:2位

読解力:14位

いかがでしょうか? 確かに順位が下がっています。特に前述の通り、読解力の下落が顕著です。ただ、この結果を根拠にゆとり教育が失敗したなどと大々的に報道したメディアの論調には強く抗議したいです。

まず、参加国、地域が9つも増えています。分母が増えているので多少の順位ダウンは当然起こり得ることです。

そして、一番の問題は、この2003年のテストは2002年に施行されたゆとり教育が始まって1年しか経っていないということ。つまり、このテストを受けた世代は1年生から中学2年生まで、所謂ゆとり教育ではない教育を受けており、中学3年の1年間だけゆとり教育を受けた世代です。

この結果を批判するのであれば、批判されるべきはゆとり教育ではなく、その前に実施されていた1980年度施行の学習指導要領だということになります。メディアがいかに適当にゆとり世代を批判していたのかがよくわかります。

しかし、だからと言って、ゆとり教育が悪くない訳ではないとの声が聞こえてきそうですので、続いて、ゆとり教育を2年生から受けて育った世代が受けた2012年のPISAの結果を見てみましょう。

PISA 2012(65の国と地域)の結果と考察

PISA2012(65の国と地域)

数学的応用力:7位

科学的応用力:4位

読解力:4位

2003年と比べて数学が1つ、科学が2つ順位を落としていますが、国語は14位から4位まで上昇しています。これは日本が受けてきたPISAの中でも最高の順位。繰り返しますが、この世代はゆとり教育を2年生から受けて育った世代です。

ゆとり教育を1年も受けていない生徒が受験した2000年の8位と比べても4つ順位を伸ばしています。しかも参加国数は2000年の倍以上である65の国と地域。ゆとり教育が問題がある制度だったとすると、この学力向上の説明がつきません。8年間毎日ゆとり教育を受けた世代が、その前の世代よりも実績を残している中、本当にゆとり教育が失敗と断じてしまっても良いのでしょうか。

ちなみに、フランスではこの結果を受けて日本のゆとり教育は大成功だったと論じられています。

この結果を見ると明らかにゆとり世代の方が詰め込み教育世代よりも成績が良いのにも関わらず、メディアはこの事実を殆ど報道しておらず、ゆとり教育の間違ったイメージが世間に広められているのです。

 

PISA2018の検討-脱ゆとり教育は大失敗。メディアが隠し通す真実。

続いて、脱ゆとり教育を3年間受けた世代が残した結果を見てみましょう。2015年の結果です。この世代は2011年から開始した脱ゆとり教育を小5、小6、中1、中2と受けた世代。

PISA2015(72の国と地域)の結果と考察

2015(72の国と地域)

数学的応用力:5位

科学的応用力:2位

読解力:8位

数学と科学は共に高いレベルで推移しており、読解力は8位と順位を落としましたが、世界の上位です。参加している国と地域が2012年と比べて12カ国増えている中、32の国と地域だった2000年のPISAと科学、国語が同じ順位、数学も5位と好成績です。

この学力の高さはゆとり教育によるものなのか、脱ゆとり教育によるものなのかが分かりづらいため、最新の2018年の結果を見てみましょう。 

PISA2018(79の国と地域)の結果と考察

PISA2018(79の国と地域)

数学的応用力:6位

科学的応用力:5位

読解力:15位

2018年のPISAは小2から中3までの8年間脱ゆとり教育を受けた、言わば脱ゆとり教育世代。

そのゆとり世代が残した成績の中でも取り分け落ち込んでいるのが国語力。純ゆとり世代が受けた2012に歴代最高の4位だった国語力が脱ゆとり世代では過去最低の15位でゆとり教育批判の根拠となった2003年の14位を下回る結果となったのです。

メディアの論評では、コンピュータ試験に慣れていなかったのが原因などと書いてありますが、コンピュータ試験は2015年に導入されており、その時は国語力8位と悪い結果ではありませんでした。ですからコンピュータに慣れていなかったからという理由は非常に疑わしいと言えます。

このようにゆとり教育から脱ゆとり教育に移行して顕著に読解力が下がっているのにも関わらずメディアは口を噤んでいますゆとり教育を批判したメディアの論調を借りるのであれば、これこそ脱ゆとり教育の失敗であり、詰め込み教育の弊害であると言えます。

 

PISAの結果から見るゆとり教育と詰め込み世代

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ここまでPISAの結果を調べてみて、言えることは、明らかにゆとり教育世代の方がゆとり教育の前の世代や脱ゆとり世代よりも国語力が高いということ。

この結果を持って、ゆとり教育が失敗だったという誤った認識は改めなくてはなりません。一方で、小学校で詰め込み教育を行ったゆとり教育の前の世代、脱ゆとり世代では国語力は低下していることも分かりました。

小学校で詰め込み教育を受けた世代が受験した2000年、2003年、2006年、2018年の読解力の平均順位は13位、小学校でゆとり教育を受けた世代の結果である2009、2012、2015年の結果は6.6位。つまり、詰め込み教育は国語力を低下させるということが分かります

一方で、日本はいつの世代も安定して数学、科学の分野で素晴らしい記録を残しているということも読み取ることができました。

この結果から、ゆとり教育は成功だった、詰め込み教育を受けた世代は失敗だったと結論付けたいと思います。

今後はゆとり世代=優秀な成功事例それ以外の世代=失敗作とラベリングしたいと思います。そして学習指導要領は即座にゆとり教育へ戻し、脱ゆとり教育から脱却しなければなりません。

 

PISAの結果で世代をラベリングしてはいけない

今まで読んでくださった皆様の中には私の結論を大いに不快に思った方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。

PISAのデータだけで世代を優秀だとか失敗作だとか、断じていいはずがないですよね。国語力が4位だろうが、15位だろうが、世界の上位にいることは変わりませんし、問題との相性もあります。それなのに、PISAの結果だけをみて、その世代を失敗だとか、ゆとり世代だとか、ラベリングするのは全く何の意味もなく、なんの役にも立ちません。人間の尊厳を傷つける行為です。

本当にやらなくてはいけないのは、国語力が落ちたなら、どのように子供達が国語を楽しめるようになるのかを研究、検討すること。そのためにテストがあります。

教育方法、教育内容の充実を目指すために議論すること、教育現場の改善や効率化、子供達が教育を受けるためにどうしたら一番良いのかを考えることが、本当にやるべきことではないでしょうか。

PISAの結果を用いて1つの世代を失敗だったと憂い批判することは何のためにもなりません。ですから、ニュースやメディアの報道に一喜一憂するのではなく、本当の意味で子供達のためになることは何かをこのPISAの結果を用いながら検討できる社会になれば素敵だなと思います。

 

最後に

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今回はこれまでのPISAの結果を比較しながら、その結果によって世代をラベリングするのが本当に正しいことなのかを、ゆとり教育失敗論に反対する立場から考察してみました。

国際的な評価やランキングというのは改善法を検討するためにあるものです。その結果を用いて他者を攻撃するような、そんな社会ではなく、より良くするためにはどうすればいいのかを一人一人が考え改善していけるような社会になっていくと、将来の子供たちが住みやすい社会になるのではないかなと思います。

 

ちなみに

今回の記事は教育内容の変化に関して十分な比較検討は実施しておりません。

また、PISAのデータは全て文部科学省のデータを用いていますが、本稿を執筆するにあたり恣意的にデータを選択して使用しています。したがって、本稿での結論に合わないようなデータは恣意的に記載していません。

情報というのは使い用ですから、世の中にはこの記事のように結果を導くためのデータだけを記載していることが多々あります。この記事も嘘は書いていませんが、私の論理は学術的な手順を踏んでいるわけではありませんので、話半分で読んで頂き、今後もこの手の記事の信憑性には十分注意しながらニュースを読んで頂けると幸いです。

※データの出所

国際学力調査(PISA、TIMSS):文部科学省

 

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