教員採用試験では、教職教養と一般教養があります。
この記事では教職教養の教育心理学の分野である発達の理論をご紹介します。
発達の理論 教育心理
発達心理学は児童心理学という名前で始まり100年余りの歴史がある分野です。現在では成人期及び老年期の研究もテーマとなっているため、生涯発達心理学とも呼ばれます。
この記事では、幼児期、児童期、青年期を中心に、人間の生涯発達の特徴と理論的背景についてご紹介します。
発達については、特にピアジェとエリクソンが有名な人物であり、発達にいての学問として、発達の要因、発達曲線、ギャングエイジなどの概念も理解を深めていきたいと思います。
※こちらの記事は下記書籍を参考に作成しています。
発達とは
発達とは、個体の発生から死ぬまでに起こる様々な変化のことを指します。特に心身の変化、中でも、精神の機能や構造の変化を見ます。
近年では、青年期以降の変化も考察対象となっており、「生涯発達」という用語が用いられることが多いです。
一方で、「成長」は発達と似た言葉ではありますが、身体的、生理的変化を中心とした量的な増大のことを指します。背が伸びる、などが成長の例です。
発達という言葉の概念は、量的な面も、精神の質的な変化にも焦点を当てる、包括的な用語として用いられます。
発達の要因①成熟か学習か
人の発達の要因として、遺伝か環境かという論争が長年繰り広げられてきました。
環境の影響を説いた代表例がワトソンの環境優位説で、遺伝の影響を説いた代表例がゲゼルの成熟優位説です。
ワトソンは、行動主義心理学の立場から、人の発達は生後の環境における学習によって規定される「環境優位説」を唱えました。
有名な言葉として、「自分に12人の健康な赤子とその子供たちを育てるための特別な環境を与えてくれるならば、その子の才能、好み、傾向、人種に関わりなく、医者でも、法律家でも、必要とあらば乞食にでも、盗賊にでも育て上げることができる」というものがあります。
この立場は、あらゆる行動の形成を刺激と反応の連合で説明する学習の理論を基礎としています。
ゲゼルは、遺伝的要因を重視する成熟優位説を主張しました。
ゲゼルは、双生児統制法を用いて、階段登りの訓練と成熟の関係を調べ、身体・運動的に十分な時期が来るとレディネスが形成され、短期間の訓練でも階段を早く登ることができることを証明しました。
つまり、逆説的には「レディネスが不十分な段階では訓練が低い」ということが言えます。
なお、成熟とは、遺伝的に組み込まれたプログラムによって個体が完成状態に達することを言います。
ロシアの心理学者であるヴィゴツキーは、発達の水準を2つに分けて考えました。
一つは「現在の発達水準」と呼ばれ、もう一つは「明日の発達水準」と呼ばれます。
現在の発達水準は、子供が与えられた問題や技能を自主的に解決し得る水準のことで、明日の発達水準は、自主解決は不可能でも適当な助言や教示が与えられると解決し得る水準のことを指します。二つの水準の間の領域を発達の最近接領域と呼びます。
この立場では、レディネスは成熟だけでは決まらず、教師の働きかけという環境要因が重視され、それによって、明日の発達水準が自主的解決可能な現在の発達水準へと移り変わり、新たな最近接領域が出現すると考えられます。
発達の要因②加算説
シュテルンの輻輳説(ふくそうせつ)は、遺伝も環境も共に作用するという立場です。
発達は遺伝要因と環境要因が加算的に作用し、それが収斂・収束して、発達していくという考え方です。
これを図示したのがルクセンブルガーの対極説です。これは、環境的要因と遺伝的要因の割合が表出する特徴によって異なることを図示したものとなります。
発達の要因③相互作用説
遺伝的な素質・可能性と、環境条件の双方が重要であり、どちらか一方だけでは特性は顕在化しないというダイナミックな発達要因の捉え方が相互作用説です。
相乗的に作用し合って発達を決定するというこの考え方を示すのが、ジェンセンの環境閾値説です。
この考えでは、それぞれの特性に対して環境の影響と遺伝の影響がどう作用すると特性が顕れるのかが特性によって異なっている(環境が大きい要因の場合もあれば遺伝が大きい要因の場合もある)という考え方です。
発達研究の方法
子供の心理の研究のためには、科学的な方法が必要であり、様々な研究方法が開発されています。
①実験的方法
実験による量的に測定。2つ以上の事象の間の因果関係を調べるのに適している
②事例研究法
個性記述的な臨床場面に適している
③横断的研究法
同一時点で様々な年齢の子供を観察、テストや実験を行い、発達過程などを明らかにする。大量のデータを収集できるが、発達の軌跡が加齢だけでなく時代的な背景からも影響を受けるため、結果に加齢と時代背景のどちらが影響したのかを区別できない
④縦断的研究法
同じ子供を何年も追跡して繰り返し観察、テスト、実験する方法。ターマンの天才児についての35年間の研究が有名。
加齢による変化が明確になるが、研究対象が限られるため時代的な変化が見えない
⑤コホート分析
同じタイミングで出生したり入学したりした個人の集合であるコホートを追跡して、時代変化に伴う事象を量的に記述してそれをコホート内やコホート間で比較する方法。
発達段階説
身体的、精神的な発達において、乳児期、幼児期、児童期、青年期、成人期、老年期の6つの区分があります。
①乳児期
生後1歳ごろまで。母子のアタッチメント(愛着)が成立し、歩行と言葉の獲得時期。生後1ヶ月までを新生児期と呼ぶ。
アタッチメントを提唱したボウルビーは、その形成に、乳児の泣き声や発生、笑顔(3ヶ月微笑)などに対して母親が自然に反応するという生得的なシステムが関わっているとした。人見知り(8ヶ月不安)は、母親に対してアタッチメントが形成されていることを表す。
ハーロウは授乳可能な針金製の代理母と授乳不可の布製の代理母を猿に与える実験の結果から、接触して快い布製の代理母にアタッチメントを持つと考えた。
エインズワースは、アタッチメントの個人差を測定する実験方法として、ストレインジ・シチュエーション法を開発。乳児と母の分離時と再会時における乳児の反応により、回避型、安定型、アンビバレント型に分類する。
このような発達初期のある特定の限られた期間に与えられた経験が後の発達に決定的な影響を及ぼすとき、その経験を初期経験とよび、そこで行われる学習を初期学習という。
②幼児期
5-6歳まで。基本的な運動能力、生活習慣、言語、自我が発達。第一反抗期。
他社の視点が理解できず、自分の視点からのみ物事を理解する自己中心性、物質にも生命があると考えるアミニズムといった特徴がピアジェによって示されている。また、ウェルナーは、物事を人間の表情的に認知しようとする相貌的知覚を指摘。
③児童期
12歳ごろまで。学童期。身体的・知的に発達。児童期の後期はギャングエイジ(社会性が発達し仲間関係が広がる)と呼ばれる。
④青年期
20歳半ばまで。青年期の前期では第二次性徴期に伴い、心身ともに大きく変化。親への依存と独立との間を行き来しながら心理的離乳を果たそうとする。
※ピーターパン・シンドローム、シンデレラ・コンプレックス
カイリーによって提唱されたピーターパン・シンドロームは、大人社会への参入を拒否している男性が示す心の症候群。
ダウリングによって提唱されたシンデレラ・コンプレックスは、未熟な女性に関する概念であり、女性の心理的自立を阻む要因が女性自身の中にあるという依存状態。
また、青い鳥症候群は、「自分にはもっと適した職業があるのではないかと思い込み、離転職を繰り返す状態を指す。
⑤成人期
60歳ごろまで。独立して社会的な活動により生計を営む
⑥老年期
心理的、身体的機能の減退、退職や配偶者との別れなどの喪失を特徴とする。
初期学習について
初期学習の代表的な例は次のようなものがあります。
①生理的早産
動物学者のポルトマンによると、人間は体内で成熟する期間が短く、早く生まれるため、生理的早産の状態であり、本来なら胎内にいて育つ期間を子宮外胎児期と呼ぶ。
②マターナル・デプリベーション
愛情豊かな交流が妨げられたとき、子供に知的発達の遅れ、情緒表現の未熟、社会性の不足、習癖などの問題が見られるが、ボウルビーによってそのメカニズムが解明され、マターナル・デプリベーション(母性剥奪)と呼ばれるようになった。
③インプリンティング
ローレンツによって明らかにされた「刷り込み」。この反応はある一定期間しか成立せず、刷り込みが成立する時期を臨界期と呼ぶ。
④発達加速現象
身体発達が時代と共に加速され、生理的成熟が早期化している現象を発達加速現象と呼ぶ。背景には、栄養状態の改善、生活様式の変化、刺激の増加などが指摘されているが、近年は成熟の低年齢化の進行は停滞してきている。
終わりに
この記事では、教員採用試験の教職教養の分野である教育心理学の発達の理論についてご紹介しました。
発達の要因についての説や発達の段階についての理論をしっかりと覚えることが大切かなと思います。
※こちらの記事は下記書籍を参考に作成しています。