金属加工には様々な種類がありますが、その中で切る・削る・穴をあけるという加工を切削加工と呼びます。
この記事では、主要な切削加工の一つ「ネジ切り加工」の基礎知識をご紹介します。
穴あけ加工の基礎知識-工具の種類やクーラントの役割なども紹介
切削は、ものづくりには欠かせない切り削る加工方法です。
「切る」工程と「削る」工程では加工方法や工具が大きく異なっています。切削加工の中の削る工程では主に旋削加工、フライス加工、穴あけ加工の3つの加工方法が存在します。
工具を取り付ける機械には、旋削用の旋盤、フライス加工用のマシニングセンタ、旋削もフライス加工も可能な複合加工機があります。
この記事ではこの中の穴あけ加工に分類される「ネジ切り加工」の基礎知識をご紹介します。
ネジ切り加工の概要
ネジ切り加工は、下穴を工具で削りネジを作る加工です。
ネジの製法として、金型、スレッドミリング、タッピング、研磨、転造、旋削ねじ切りがあり、その中で切削加工に分類されるのが、タッピング、スレッドミリング、ネジ切り旋削加工の3つ。
ネジは、締結、力の伝導、位置調整という3つのうちのいずれかの役割を果たす部品で、ネジの種類も産業によって様々です。
ネジ規格の例
-一般産業-ISOミリ、ユニファイ
-ガス・水道・給水用パイプ結合-ウィットワース、英国規格BSPT、NPT、NPTF
-食品・消防パイプの結合用-丸DIN405
-航空機産業用-MJ、UNJ
-油井管-API 60°
-油井管-APIバットレス
-機械作動用-ISO大経/DIN103、ACME、Stub ACME
ネジ切り工具の選定
ネジの作り方は様々ですが、うち切削の分野に分類されるのが、タッピング、スレッドミリング、旋削の3つの加工方法です。
特徴は以下の通り。
タッピング:
タップを使用しワークへの工具の上下運動によってネジを切る方法。生産性高く、NCプログラムが簡単、小径が得意、雌ネジのみ加工可
スレッドミリング:
工具をワーク内で旋回させてネジを加工する方法。1本の工具で様々な径を加工可能、動力が少ない、切屑が短い
旋削:
大経も同じ工具で加工可能、機械動力低、外径(雄ネジ)も可
タップ
タップは下穴に回転させた工具を入れることで雌ネジを加工する工具です。
タップには、被削材を削るり切屑が発生する切削タップと、被削材に刃のついていない工具を押し付けて谷と山を成形する転造タップの2種類があります。転造タップは切削しないため切屑がない反面機械動力が必要となります。
切削タップの種類は、ストレートタップ、ポイントタップ、スパイラルタップの3つがあり、転造タップはフォーミングタップと呼ばれます。
それぞれの特徴は以下の通りです。
ストレートタップ:通り穴も止まり穴も可。鋳鉄加工に最適
ポイントタップ:通り穴用、ねじ山が切屑で損傷しづらい
スパイラルタップ:止まり穴用、切屑上方へ排出
フォーミング(転造):通り穴も止まり穴も可。切屑発生なし、柔らかい鋼(HRC36程度まで)で使用。ステンレス、アルミ合金等で多く使われる。あらゆる穴・加工深さに適用可。ネジ強度が増加
タップ材質と表面処理
タップの工具はハイスが多く表面処理が施されることもあります。
タップ材質
ハイスが9割(折れづらい)、超硬は高生産性
表面処理
ホモ処理(水蒸気処理):
表面に黒錆被膜付与。多孔質のため保油性高く長寿命。かじり防止、ステンレス加工に適する
窒化処理:
工具表面に窒化被膜、高硬度層を有し耐摩耗性高、鋳鉄加工に最適
コーティング:
硬化層を付与、低摩擦、工具コストUP
下穴径の決め方
タップ加工の下穴の決め方は、切削タップと転造タップの場合で異なります。
切削タップの下穴の決め方
D=TD-TP
D=下穴・TD=ネジの呼び径・TP=ピッチ
例:M8×1.25の場合、8-1.25=6.75が下穴の目安
転造の場合の下穴の決め方
D=TD-(TP/2)
例:M8×1.25の場合、8-(1/25/2)=7.38が下穴目安
スレッドミル
スレッドミルは、工具をした穴の中に入れたあと、旋回させることでネジを成形する工具です。
メリットは大径でも小動力で加工でき、1本で様々なネジを加工できる一方で生産性低いというデメリットもあります。マシニングセンタで加工するのですが、NCプログラムがタップと比べて複雑なこともマイナスポイントです。
スレッドミル選定方法
スレッドミルの工具選定時には、ネジ種類(工具種類決まる)、ネジサイズ(工具径・最大切込確認)、ピッチ、ネジ深さの確認が重要。
ねじ山に微小な形状誤差が生じやすい工具ですが、工具径を細くするなどの対策で形状誤差は小さくすることができます。ネジ径は工具径の1.5倍以上を目安とします。
切削条件で重要な公式は送り速度の公式です。
Vf=Vfm×(Dm-Dc)/Dm
旋削ねじ切り
旋削ネジ切り加工は、旋盤を用いてネジを加工する方法。
メリットは、大径加工が可能なこと、機械動力少なく外径加工も可能な点が挙げられます。
旋削用工具選定方法
旋削用工具選定では、加工径、ネジ等級、ワーク材質、数量を確認し、機械制限(主軸サイズ、動力/トルク、回転数、機械剛性)を考慮します。
工具には、仕上刃付き、仕上刃なし、マルチポイントという種類があります。ネジの種類はチップ種類できまり、ネジ径とピッチはシム角度で決まります。
シムは、標準シム=1°ですが、ワーク径とリードによって異なる場合もあります。
チップ種類
チップの種類には、仕上刃付き、仕上刃無し、マルチポイントチップの三種類があります。
仕上刃付き
メリット:ネジ形状の調整がしやすい、バリが少ない
デメリット:ピッチ及び形状ごとに異なるチップが必要
仕上刃なし
メリット:汎用性が高い、1つのチップで異なるピッチのネジ加工可
デメリット:バリが発生した場合対策が必要、仕上げ加工が必要
マルチポイントチップ
メリット-パス回数を現象、高生産性
デメリット-安定したセットアップが必要、不完全ネジ部が長くなる、ワーク剛性が必要
ネジの切込方法
ネジの切り込み方法は、切屑処理、チップ摩耗、ネジ精度、工具寿命に影響します。
修正フランクインフィード、ラジアルインフィード、インクレメンタルインフィードの3つの切り込み方法があります。
修正フランクインフィード
ネジを側面から加工していく方法。ほとんどのNC旋盤はこのサイクルプログラムを搭載。
切屑は従来旋削加工に類似、切屑は厚くなり、切屑処理良好。
・チップは先の片面のみを使用
・ほとんどのねじ切り加工の第一推奨
・加工面良好
・L-ブレーカの最適な切込方法
ラジアルインフィード
中央部から真っ直ぐ切り込む、一般的なねじ切りの切込方法。汎用機旋盤の代表的な切り込み。
・不自然なV型切屑発生
・均一なチップ摩耗
・深い切込時にチップに高い熱発生
・小さなピッチに対し大きなピッチではビビり発生
・高硬度材での第一推奨
インクレメンタルインフィード
ネジを中央部から切り込む方法。切り込み時に右左の千鳥加工となる。
・大きなネジ形状に推奨
・均一なチップ摩耗と長い工具寿命
・切屑が両方向から排出され、コントロールが難しい
工具の芯高・条件・抵抗
推奨芯高±0.1mm
・芯高が高い→逃げ角が減少、刃先のこすれ
・芯高が低い→ネジ形状不良
切削条件
V=切削速度、n=回転数、ap=総切込み、nap=パス回数、送りはネジピッチと同じ
切削抵抗
ねじ切り加工における一番高い軸方向の切削力は入り口側と出口側で発生。高い切削抵抗下でチップクランプの剛性が低い場合はチップが動く可能性がある。
鋼材と切削を詳しく知るなら
鋼材の特性や鋼材ごとの切削方法をより深く学びたいと思ったときにおすすめな本として、『元素から見た鉄鋼材料と切削の基礎知識』という本がおすすめ。
鋼材の特徴を詳しく解説しながら、その特性に適した加工方法を解説している本で、私もこの本を使って勉強しました。
切削について興味があるという場合には是非こちらの本を読んでみてください。
終わりに
この記事では、金属切削加工の主な加工方法である「ネジ切り加工」について基礎知識をご紹介しました。
金属加工では切削工程は特に重要な工程ですので、工具は良いものを選定するのが重要。また、問題が発生した時には工具メーカーに相談するのがおすすめです。
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