切削加工で生産性や加工品質に直結するパラメーターの一つに送り速度(F)があります。
この記事では、送り速度と表面粗さの関係、調整方法、計算式の意味、送り量との関係などをご紹介します。
- 送り速度と表面粗さの関係と調整方法-計算式の意味,送り量との関係等も解説
- 切削条件とは
- 送り速度Fの求め方と計算式の意味
- 送り速度が表面粗さに与える影響
- 生産性を下げることなく表面粗さを改善
- 摩耗と送り速度
- 鋼材と切削を詳しく知るための本
- 学び直しにはスタディサプリ
- 終わりに
送り速度と表面粗さの関係と調整方法-計算式の意味,送り量との関係等も解説
送り速度は、加工スピードを左右する大切なパラメーターですが、加工時の切削面の粗さ(切削品質)にも影響します。
表面粗さを改善したい場合には、一般的に送り速度を下げる方法が良いとされており、加工時間を短くしたい、工具の摩耗を抑制したいという場合には送り速度を上げるという方法が有効です。
では、この送り速度の上げ下げによって加工品質や工具寿命も変化するという理由は何なのでしょうか。
切削条件とは
切削条件には、送り速度(F)、回転数(N, RPM)、周速(V)、一刃あたりの切削量=送り量(Fz)の4つのパラメーターがあります。
送り速度(F)は機械が加工する速度、つまり工具が移動する速度で、送り速度が高いほど早く加工することが可能となり、生産性が向上します。単位は「mm/min」。
回転数(N)は工具が1分間に回転する回数のことで、周速はその回転時の速さを指します。例えば、1mの直径の工具と直径10mmの工具が1分間に同じだけ回転する場合には、1mの工具のほうが周速が早くなります。回転数の単位はRPM、周速の単位はm/minです。
一刃あたりの切削量はFzという記号で表し、工具が1回転するときに工具の1刃が削る量を指します。つまり、1刃が1回に切削する取り代です。一刃あたりの送り量とも呼ばれます。単位はmm/zです。
※切削条件についての詳しい解説はこちら
送り速度Fの求め方と計算式の意味
F=Fz x N x Z
送り速度を求める計算式は、上の公式の通り、
1刃あたりの切削量 x 回転数(RPM) x 刃数
で求めることができます。
例えば、工具に1刃ついていて、1刃あたりの切削量が10mmの場合、1分間に1回転する間に刃が10mm削る=10mm進むこととなります。
つまり、F=10mm/z x 1 RPM x 1z となり、F=10mm/minとなります。
同じように、工具に2刃ついていて、1刃が2.5mm削り、1分間に2回転する場合は、工具1回転する間に上の刃が2.5mm、下の刃が2.5mm削るので、1回転で合計5mm進むこととなり、1分間に2回転するので、1分間に10mm進む計算となります。
F=2.5mm/z x 2RPM x 2z =10mm/min
1分間に10mm進むので、F=10mm/min となります。
つまり、送り速度というのは、工具1刃が何ミリ削るか(一刃あたりの送り量)、その工具は何刃チップがついているか(刃数)、そして1分間に何回転するのか(回転数RPM)、という3つの要素を掛け合わせることで求めることができるのです。
送り速度が表面粗さに与える影響
送り速度というのは、工具が1分間に加工する距離を表しています。つまり、加工速度です。加工速度が早ければ加工品質(表面粗さ)が悪くなるというのは直感的に想像できると思います。
例えば、はさみで紙を切るとき、きれいに切りたい場合にははさみをゆっくりと動かします。一方で、急いで切っているときは上手に切るのが難しくなります。
機械での加工も同じで、早く加工する(送り速度を上げる)と加工品質が悪くなる傾向にあるのです。
一刃あたりの切削量と送り速度
早く加工するほど品質が悪化することは直感でつかむことができました。では、その理由はどのようなものなのでしょうか。
実は早く加工すると品質が悪くなっしまう原因は、「送り速度を高めると、一刃あたりの切削量(Fz)が大きくなってしまい、切削面が粗くなってしまう」ということなのです。
一刃あたりの切削量「Fz」を求める公式は
Fz=F/N*Z
(F=送り速度、N=回転数RPM、Z=刃数)
です。つまり、送り速度を回転数と刃数で割ります。
例えば1刃ついた刃物が1回転して10mmを切断する場合、1刃あたりの切削量は10mmとなります。
二刃ついている刃物で、同じように10mm切削する場合、1刃は5mm削ることとなるので、一刃あたりの切削量Fzは5mmとなります。
この2つの図をみると、一刃の切削量が増えれば増えると程、1回に削る量が大きくなり、切断が粗くなることがイメージできます。
加工速度を上げるということは、このFz=F/N*Zという式の「F」の部分を大きくするということです。
Fを上げるとどうなるのかというと、分子のFを上げたことによって、連鎖的に一刃あたりの切削量であるFzが上がってしまうのです。
この連鎖反応によって、加工スピードである送り速度Fを早くすると、一刃あたりの切削量Fzが大きくなり、切削面が悪くなりますし、反対に、送り速度を下げるとFzが小さくなるので、表面粗さの改善につながるのです。
生産性を下げることなく表面粗さを改善
ここまで、送り速度を上げると切削面は悪く、下げると切削面が良くなることがわかりました。
しかし、ものを加工するときには早く加工したほうが生産性が上がるため、表面粗さを悪くすることなく送り速度を上げることは至上命題であるといえます。
そのような目標がある場合には、回転数と刃数を増やすことで、Fzを下げながら送り速度Fを維持することが可能です。
送り速度Fは、一刃あたりの切削量、刃数、回転数を掛け合わせた数値です。
F=Fz x N x Z
つまり、Fzを下げると自動的にFも下がります。
そこで、Fzを下げると同時に回転数と刃数を増やしてみます。
すると、上の計算式のように、送り速度Fを維持しながらFzを下げることができ、生産性を下げることなく切削面の向上を図ることができるようになるのです。
摩耗と送り速度
送り速度は切削品質と深いかかわりがあることがわかりました。
実は、送り速度は工具の摩耗へも影響を与えます。
先ほども見たこちらの式。送り速度Fを上げることで、自動的に一刃あたりの切削量Fzも大きくなります。
工具の摩耗というのは、ワークに工具が当たった回数というのが大きく影響します。
例えば、工具に2刃ついているとして、10mm切削するため、1刃が2.5mmずつ削っていくと、工具の刃は1刃につき2回材料にあたることとなります。
一方で、1刃が5mm削る場合には、同じ10mm進むのに、チップが1度しか材料に触れることはありません。
つまり、切削後の工具の摩耗が2回材に触れるときに比べて半分になるのです。このように、送り速度を上げることはFzを上げることにつながり、Fzが上がることで材料にチップが触れる回数がへり、工具寿命の向上につながるのです。
ただし、ここまで見てきたように、一刃がたくさん材料を削る場合、切削面は悪くなります。また、1刃があまり多くの材を削ることとなると(Fzが大きいと)、チップへの負荷が高まり、チップに欠けが生じるリスクが高まるというデメリットもあります。
このメリットとデメリットを念頭に置きながら、最適な切削条件を探すというのが、工具での加工においてとても重要な要素であるといえます。
※詳しい切削条件の決め方はこちら
鋼材と切削を詳しく知るための本
鋼材の特性や鋼材ごとの切削方法をより深く学びたいと思ったときにおすすめな本として、『元素から見た鉄鋼材料と切削の基礎知識』という本がおすすめ。
鋼材の特徴を詳しく解説しながら、その特性に適した加工方法を解説している本で、私もこの本を使って勉強しました。
切削について興味があるという場合には是非こちらの本を読んでみてください。
学び直しにはスタディサプリ
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終わりに
この記事では、送り速度の計算方法やその意味、表面粗さとの関係を例を用いてご紹介しました。
送り速度を変化させることでFzが変化し、そのFzの変化によって切削面が良くなったり悪くなったり、刃物寿命が延びたり縮んだりします。加工パラメーター設定時には、この関係を念頭に置きながら、最適な切削条件を見つけてみてください。
なお、材料ごと、工具ごとの最適なパラメーターについては工具メーカーが詳しく教えてくださいますので、一度問い合わせてみるのがいいかなと思います。
※角速度の計算方法はこちら
※モーターの回転数の求め方はこちら