ものを加工する際に重要な要素となる切削条件。
切削条件には周速、送り速度、回転数、一刃あたりの切削量など様々なパラメーターがあり、被削材の切削品質改善、工具摩耗抑制、刃欠け抑制など加工時の要望によって条件を調整していくことが必要です。
この記事では「表面粗さを改善したい(綺麗に加工したい)」場合の切削条件の決め方をご紹介ます。
- 表面粗さを改善したいときの切削条件の決め方-面粗度重視の切削速度の設定方法とは
- 切削条件とは
- 初期切削で面粗度重視の切削条件
- Fzを下げるためのパラメーター調整
- 磨耗を抑制したい場合の条件
- 突発的な損傷が原因の場合
- 最適な切削条件はメーカーに確認
- 鋼材と切削を詳しく知るなら
- 仕事で使う英語を学ぶおすすめツールを紹介
- 終わりに
表面粗さを改善したいときの切削条件の決め方-面粗度重視の切削速度の設定方法とは
切削初期段階の表面粗さ(切断品質)を改善するためには、一刃あたりの切削量(Fz)を小さくすることが有効です。
Fzを小さくするためのパラメーター調整として、送り速度を下げる、回転数を増やす、工具の刃数を増やす、の3つの方法があります。
反対に、切削初期の表面粗さは問題ないけれど、摩耗促進が早く、品質が長持ちしない(工具寿命が短い)場合の対策としては、Fzを大きくする、工具の材質をより耐摩耗性の高い材質に変更するという2つの方法が考えられます。
ここからは、それぞれのアプローチについて、詳しく解説していきます。
切削条件とは
まず初めに知っておきたいことが、切削条件とは何か、ということです。
切削条件は基本的に、送り速度(F)、回転数(N, RPM)、周速(V)、一刃あたりの切削量(Fz)の4つのパラメーターがあります。
送り速度は機械が加工する速度、つまり工具が移動する速度で、送り速度が高いほど早く加工することが可能となり、生産性が向上します。
回転数は工具が1分間に回転する回数のことで、周速はその回転時の速さを指します。例えば、1mの直径の工具と直径10mmの工具が1分間に同じだけ回転する場合には、1mの工具のほうが周速が早くなります。
一刃あたりの切削量はFzという記号で表し、工具が1回転するときに工具の1刃が削る量を指します。つまり、1刃が1回に切削する取り代です。
それぞれのパラメーターはお互いに深く関係しており、1つを変更すると別のパラメーターも変わってくることが多くあります。
このパラメーターの中で切削品質、表面粗さに関係してくるパラメーターが一刃あたりの切削量Fzです。
※切削条件についての詳しい解説はこちら
初期切削で面粗度重視の切削条件
加工時の表面粗さを改善したいと考えたときに、まず注目したいのが、要望している面粗度や品質を切削初期の段階で満たしているのか、満たしていないのかというところです。
例えば、切削初期には問題なく、50000cutsほど切削した段階で切削面が粗くなるという場合には、工具の摩耗により刃物の切れ味が悪くなり切断面の品質が低下していることが考えれます。
また、普段は50000cuts切れているのが、突然30000cutsで寿命となった、という場合には、機械トラブルや工具に何らかのトラブル(刃欠けなど)があったことが考えられます。
一方で、加工初期の段階で要望する面粗度を達成していない、切削面に深いナイフマークが入るといった場合には、まずは一刃あたりの切削量(Fz)を変更してみることで改善できる可能性があります。
一刃あたりの切削量「Fz」を小さく
表面粗さをパラメーターを用いて改善する場合に変更したいのは一刃あたりの切削量「Fz」です。
Fzはその名の通り、1回の切削で削ることができる取り代のことで、このFzが大きければ大きいほど、1回の回転で1刃が削る量が多くなり、切断面が悪くなる傾向があります。
例えば、工具に1刃ついていて、その工具が1回転する間に10mm切削するとします。その場合、Fz=10mmです。
この工具にもう一刃足して、1回転させると、1刃は半分の5mmを削ることとなり、Fzは5mmとなります。
この2つの図を見て何となく想像できるのが、1刃の時よりも2刃の時のほうが綺麗に切れそう、ということ。直感的に感じていただけるのではないかなと思います。
つまり、このFzを小さくし1刃が削る量を小さくすること、少しずつ細かく切っていくことが切断面を粗さを改善する方法なのです。
※上記の数値は視覚的に分かりやすい数字としており、実際に運用する場合のFzとは異なります。
Fzを下げるためのパラメーター調整
Fzを小さくし、細かく切っていくことが切断面粗さを改善するために効果的な方法だということがわかりました。
では、Fzを小さくするためには、どのようにパラメーターを調整すれば良いのでしょうか。
Fzを求める公式は、
Fz=F/N*Z
(F=送り速度、N=回転数RPM、Z=刃数)
です。
この式のFzを小さくするのですから、方法としては
①送り速度「F」を下げる
②回転数「N」を上げる
③刃数「Z」を増やす
という3つの方法があります。
①送り速度「F」を下げる
まず、送り速度を下げる方法です。
基本的にFzを下げるときに最初に考えるのはこの方法です。送り速度を下げることのメリットして、工具への負荷を過度に上げることなくFzを小さくできる点があります。
送る速度を小さくするのですから、工具の進む速度も遅くなります。Fzが小さくなり取り代が少なくなった分だけ工具が進む速度も遅くなるイメージです。
一方でデメリットとしては、工具の移動スピードが遅くなるということで、生産性が下がることが挙げられます。生産性をこれ以上下げることはできない、という場合には採用が難しい解決策です。
※送り速度についての解説はこちら
②回転数「N=RPM」を上げる
2つ目の方法として、回転数を上げる方法が考えられます。
回転数を上げるメリットとして、生産性を下げることなくFzを落とすことができるという点があります。
一方で、回転数は周速(V)に直接かかわるパラメーターですので、回転数を変更することで、材料切断時の適正な周速の範囲を超えてしまう可能性がでてくるというデメリットがあります。
材料の種類や工具の寸法・種類ごとの適切な周速については工具メーカーが設定していると思いますので、回転数を変更する場合にはお使いの工具メーカーに問い合わせるのが一番かなと思います。
③刃数「Z」を増やす
Szを小さくするための最後の方法として、工具の刃数を増やすという方法があります。
この方法は、材料寸法によっては適用できなかったり、工具コストが上がったり、現行品から工具を変更しなければならないといったデメリットがありますが、切断面をきれいにしながらも高速送りが可能となるなど、製造面ではメリットが大きい方法です。
最近では工具の多刃化を強みとした工具メーカーも存在しており、品質改善と生産性を一度に高めることができる提案を用意されていたりします。
工具の刃数変更は工具メーカーの協力が不可欠となりますが、興味がある場合には一度問い合わせてみるのがおすすめです。
磨耗を抑制したい場合の条件
工具の初期加工では問題がないけれど、何度も加工していくうちに切断品質が低下するという場合には、工具の摩耗が原因である可能性が高いです。
その場合の解決策として、Fzを大きくする、工具の刃先材質を変更するという2つのアプローチが存在します。
Fzを大きく
初期切削品質の改善にはFzを下げて細かく切るということが大切なのですが、初期切断は問題なく、切っていくとだんだんと切削肌が悪くなるという場合には、摩耗が原因の場合が多いです。
この解決方法として、Fzを大きくするという方法が考えられます。
例えば、10mmの取り代を切削するとして、1刃が2.5mmずつ取っていくとすると、工具の上の刃が2回、下の刃が2回材料にあたることがわかると思います。
取り代を大きくして、1回転に1刃が5mm切断するように設定した場合、1刃が削る量は5mmに増えますが、10mm進むときに上の刃は1回、下の刃も1回しか材料に当たらなくなるため、先ほどの2.5mmずつ削るのと最終的には同じ量を削るのですが、摩耗の進行が抑制されます。
この場合、1回に5mm切削しても切削品質に問題が無ければ、摩耗を抑制することができる点で、Fzを増やすという方法で問題を解決することが可能です。
刃先材質を変更する
摩耗が原因なのであれば、工具の材質をより耐摩耗性の高いものに変更するという方法も効果があります。
同じ超硬合金であってもグレードによって耐摩耗性が高かったり、靭性が高かったりするので、ラインナップの中から切削する材料に応じて最適なものを選ぶことが大切です。
この場合、工具メーカーに問い合わせを行うと、丁寧に対応してくださると思います。
突発的な損傷が原因の場合
摩耗ではなく突発的な刃欠けが原因で切削面に筋がつくなどした場合には、工具保管時に刃先保護用のカバーを付けたり、取り付け時に機械にぶつけてしまうなどの事故を防ぐ対策を行うこと、切削時の切りくずの巻き込みを防ぐ(切削液の位置や量等を改善する)などの方法も考えることができます。
最適な切削条件はメーカーに確認
ここまで切削時の表面粗さを改善したい場合のパラメーターの調整方法をご紹介しました。
Fzを下げることで切断品質の向上が図れること、磨耗抑制には反対にFzを上げることが効果的であるということが分かりましたが、では、材料や工具に応じた最適な切削条件は何か、というところですが、場合に応じた最適な切削条件に関しては各工具メーカーが独自のノウハウを持っていますので、使用している工具のメーカーに問い合わせるのがおすすめです。
アルミを切るのか、鉄を加工するのか、材料の最大削り代はどのくらいなのか、工具の径、刃数、機械の剛性など、様々な要因を考慮しながら最適なパラメーターを設定してくださると思います。
鋼材と切削を詳しく知るなら
鋼材の特性や鋼材ごとの切削方法をより深く学びたいと思ったときにおすすめな本として、『元素から見た鉄鋼材料と切削の基礎知識』という本がおすすめ。
鋼材の特徴を詳しく解説しながら、その特性に適した加工方法を解説している本で、私もこの本を使って勉強しました。
切削について興味があるという場合には是非こちらの本を読んでみてください。
仕事で使う英語を学ぶおすすめツールを紹介
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終わりに
この記事では、表面粗さを改善したい場合の切削条件の決め方をご紹介しました。
切削初期段階での切削品質の改善を目指す場合にはFzを小さくする、磨耗進行による切断面の荒れを改善するのであれば、Fzを大きくするという方法が効果的です。
他にも、工具の刃角度を調整することで切削品質が向上したり、チップ材質を変更することで工具寿命を長くすることも可能ですので、一度メーカーに問い合わせてみるのがお勧めです。
※モーター回転数の計算方法はこちら
※角速度の求め方はこちら