英語を勉強するとき、覚える単語が多いなーと思うことはありませんか?
似たような意味を持つ多くの単語。英語では、このような複雑な語彙が何故形成されたのでしょうか?実はその答えは英語が辿った数奇な運命にあるのです。
今回は英単語の複雑さの謎に迫るべく、英語の生い立ちを追ってみたいと思います。
- 英語の語彙は何故多いのか-英語とフランス語の関係から考える
- 英語のグループはゲルマン系
- 英語とフランス語の交わり
- 現代英語の語彙とフランス語の影響
- 最後に
- (おまけ)ロマンス諸語を学び英語力アップ!?
英語の語彙は何故多いのか-英語とフランス語の関係から考える
私は学生の頃、単語集や構文集を沢山買って、毎週のようにテストして、テストの度に、「こんなに単語覚えるの?」と思っていました。
覚える単語量が多いだけでなく、同じ意味のなのに違う単語や言い回しが沢山あります。たとえば、「ありがとう」という時に、「Thank you」と言う人もいれば、「I appriciate it.」と言う人もいます。
物を探すことは「Look for A」で習いますが、同じく「Search」という単語も存在します。同じ意味なんだから1つの単語だけにすれば良いのにと文句を言いたくなります。
語彙が多いといわれる英語。その理由は英語とフランス語の深い関係にありました。歴史的にイギリスとフランスは切っても切り離せない関係をもっており、英語へのフランス語語彙の流入が多く、英語の多様な語彙を形成したといわれています。
この記事では、そんな英語の語彙について、とくにノルマン朝時代のフランス語流入の観点から、ご紹介します。
英語のグループはゲルマン系
言語にはグループがあり、それぞれの言語が何らかのグループに属していることが多いです。英語はゲルマン系の言語だと言われているのですが、フランス語系の単語が多いのが特徴です。
言語文化(グループ)について
言語にはグループがあります。この言語のグループは「言語文化」とも言い換えることが出来ます。
歴史の授業を振り返ってみると、世界史の授業で「エジプト=ハム語系」、「バビロニア=セム語系」、「ヒッタイト=印欧系」などと習ったことがある方も多いと思います。この、○○系という分類は「言語文化」という観点からの分類となっており、グループごとに異なった言語的特徴を持っていたということなのです。
※ちなみに、他の括りでは、宗教文化、食文化などがありますが、これらの文化を分類として利用するのは難しいといわれています。例えば、日本には神道、仏教、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教等々、いろいろな宗教を信じる人が居ますので、なかなか宗教文化として一括りには出来ません。その点で、地域ごとの特徴を考えるときに、言語文化はとても有用です。そして、地域ごとの言語の広がりと言うのは、かなり明確に分かれていることが多いのです。
英語のグループは?
では、英語のグループは何でしょうか?それは、「印欧系のゲルマン語派(以下ゲルマン系)」というものです。ドイツ語やオランダ語、北欧言語の兄弟です。ちなみに、印欧系の仲間として、有名なのが、ラテン語を祖先に持つロマンス諸語(ラテン系)。フランス語やイタリア語、スペイン語などがあります。ただ、「印欧系」という括りは「アジア人」という括りくらい大きいものであり、イラン人と日本人があまり似ていないのと同様、ゲルマン系とラテン系はあまり似てはいません。
※ロマンス諸語についてはこちら
英語とフランス語の交わり
言語にはグループがあること、英語はゲルマン系のグループに属していることが分かりました。
では、何故英語は語彙が多いのでしょうか。その疑問を紐解く鍵は、フランス語との関係にあったのです。上の説明では、「英語はゲルマン系、フランス語はラテン系で二つの似ている度合いは日本人とイラン人くらい」だったはずですが、フランス語が英語の語彙にどう関わっていたのでしょうか。
英語の成り立ち
もともとはイングランドには、「ケルト人」と呼ばれる人たちが住んでいました。平和に暮らしていたのですが、今から2000年ほど前の43年から476年まで、ローマ帝国に攻め込まれ支配されました。そこでは、庶民=ケルト人(ケルト語)、支配階級=ローマ人(ラテン語)という2重構造となっていたのです。
その後、ローマ帝国が滅亡し、ローマ人たちは居なくなり、ケルト人に束の間の平和が訪れます。しかし、今度は新たにアングロサクソンと呼ばれる人たちが侵入して来ました。そして、アングロサクソン人が覇権を握り、ケルト人をウェールズやスコットランド、アイルランドに追い払い、アングロサクソン人の天下となりました。このアングロサクソン人の天下の下で使用され始めたのが、今の英語の祖先である、古英語です。
栄枯盛衰とはよく言ったもので、アングロサクソン人が栄華を極めていた頃に、今度は北欧のヴァイキングが攻めてきます。ヴァイキングは強く、瞬く間にヴァイキングがイギリスに侵攻。アングロサクソンとの共生を始めます。ヴァイキングは、偶然なことに、ゲルマン系の言語を話す民族でした(今のノルウェー・デンマーク・スウェーデン出身の人々)。そのため、古英語とヴァイキングの言葉である「ノルド語」は互いに交じり合い、ゲルマン系の英語の基礎を形作ったのです。
ノルマンコンクエストとフランス語流入
同じゲルマン系同士の融合を行っていた英語とノルド語ですが、1066年、フランス北部のノルマンディ地方を治めていたノルマンディ公ウィリアムにイングランドが敗れたことによって、イングランドがフランス語を話すノルマン人に支配されることになりました。所謂ノルマン朝の誕生です。
ノルマンディ公ウィリアムの祖先はノルウェー人で、ノルマンディ公ロロという人物。ノルマンコンクエストの100年ほど前に、フランスに攻め入って、フランス北部のノルマンディ地方を治めることになった人物です。
こうして、イングランドはノルマン人の支配を受けるようになったのですが、ノルマン人はアングロサクソンと同じゲルマン系の民族ですので、民族的には近い民族でした。ですが、ノルマンディ公ウィリアムはフランス生まれの生粋のフランス語話者ですので、当然その部下達もフランス語を話します。そこで成立したのが、「支配階級がフランス語話者で、支配される人々が英語話者」という構造です。
このフランス語話者が支配し、英語話者が支配されるという社会的構造は、その言葉にも影響しました。つまり「高貴な言葉はフランス語、下賤の言葉が英語」という2重構造の誕生です。例えば、動物を表す単語は、育てるときの単語と、食べるときの単語が英語では異なります。これは、「作るのは英語話者、食べるのはフランス語話者」だったからなのです。
①牛:Cow(英語起源)、牛肉:Beef(仏語起源)
②羊:Sheep(英語起源)、羊肉:Mutton(仏語起源)
③豚:Pig(英語起源)、豚肉:Pork(仏語起源)
※フランス語と英語がどのくらい似てるかはこちら
現代英語の語彙とフランス語の影響
歴史的なうねりの中で、英語にはフランス語の影響が強く残りました。この、ノルマンコンクエストによるフランス語の英語への影響が、英語の語彙の多さの理由だったのです。では、フランス語の影響はどのような場合に顕著に現れるのでしょうか。
パターン1:英語起源か仏語起源かで言葉自体の意味が異なる
英語起源・仏語起源で言葉の意味自体に貴賎が現れているものがあります。
①Chamber:謁見室などの豪華な部屋(仏)、Room:普通の部屋(英)
②Chair:議長椅子等の背もたれのある椅子(仏)、Stool:肘掛け椅子(英)
パターン2:改まった場面で使う言葉と日常で使う言葉
英語起源・仏語起源の違いが、その単語を使用する場面で異なる場合があります。一般的に、英語起源の単語が普段使い、仏語起源の単語はビジネスなど改まったときに使用されることが多いです。そして、英検などでは上級になればなるほど、仏語起源の単語が頻出します。
①Commence:開始する(仏)、Begin:始める(英)
②Tranquil:静かな(仏)、Quiet:静かな(英)
③Infant:子ども(仏)、Child:子ども(英)
このように、ノルマンコンクエスト当時の、貴族が使う言葉と平民が使う言葉という位置づけの名残が、1000年経った今でも英語に影響を与えており、これが英語の語彙複雑にする原因だったのです。
※フランス語を始めて学ぶならこちら
最後に
今回は英語の語彙の多さについて、フランス語との関係から考えてみました。そして、次の3点が英語という言語の形成に影響しているということがわかりました。
①世界の言葉は大まかにグループ分けができ、英語の骨格はゲルマン系言語である
②ノルマンコンクエストを機にフランス語の影響を強く受けるようになった
③フランス語の影響は未だに残っており、難しい語彙に顕著である
英語には多くの語彙がありますが、その背景には、英語が辿ってきた様々な生い立ちがあります。ですから、英語学習時に語彙が多くて覚えるのが大変だと思ったときには、英語の背景に目をむけ、その時代を生きた人々の生活を思い浮かべてみると、英語単語の暗記にもロマンを感じることが出来るようになるのではないかなと思います。
(おまけ)ロマンス諸語を学び英語力アップ!?
英語の語彙の多さの理由は「ノルマンコンクエストでフランス語の影響を受けたから」だったのですが、実は、逆にフランス語やその兄弟言語であるロマンス諸語を勉強すると、英語の語彙力が自然とアップします。と言うのも、英語の上級単語にラテン系の言葉が多いのは先に述べたとおりですが、それらの言葉はラテン系の初級単語の場合があります。
例えば、上に例を挙げたTranquilですが、スペイン語では単語帳の1ページ目に出てくる"Tranquilo"という単語で、日常でとてもよく使います。また、Commenceもスペイン語では”Comenzar”でスペイン語勉強3日目には出てくる単語です。
このように、ラテン系の言葉を勉強すると、初級の段階で出会う単語が英語の上級単語になっていたりします。つまり、フランス語やポルトガル語、スペイン語を少し勉強して英語を見返すと、見たことある単語の数が大幅に増え、実はそれらの学習が英語力の向上の一助になっていたということがあるのです。
英語の勉強が上手く進まないときには、他の言語を少し覗いてみると、そこで得た新たな学びが英語の学習にも役立ちますので、是非いろいろな言語に触れてみてください。
※英語を話せるようになる練習方法はこちら
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