すみくにぼちぼち日記

メキシコ生活や欧米旅行記、語学、大学、美術館について

つり目ポーズはアジア人差別か-中南米及びラテン国家における区別主義

スペインのサッカーチームであるマジョルカに所属する久保選手に対し、コーチがつり目ポーズを行ったとして話題となっています。海外ではアジア人を侮蔑する行為は頻繁に見られるのですが、悪意があってこのつり目ポーズのような差別をするのは非常に失礼なこと。ですが、つり目ポーズをする側の人間は揃って「差別する意図は無かった」などのコメントを出します。今回はそんな久保選手が受けたつり目ポーズについて、考察したいと思います。

headlines.yahoo.co.jp

 

つり目ポーズとは

先日メキシコ人従業員がつり目ポーズをしました。つり目ポーズといえばアジア人を揶揄するときに使用する目の両端に指を当て、大きく引っ張るポーズでのこと。特にスポーツ界などで人種差別行為として問題になることが多いです。つい先日もチリ人のサッカー選手がつり目ポーズをしたと問題になっています。

https://japanese.joins.com/article/986/244986.html

 また、アルゼンチンのマラドーナ氏もつり目ポーズをしたというニュースも報道されました。

マラドーナ氏 人種差別疑惑を否定 つり目ポーズは「アジア人の応援に感謝しただけ」― スポニチ Sponichi Annex サッカー

 

他にもバレーのセルビア代表がつり目ポーズをとったり、ダルビッシュ選手に対してつり目ポーズをとったグリエル選手など、このポーズは度々問題になっています。

 そのポーズをなんと私が運転する車の助手席に座っていたメキシコ人従業員がおもむろにやり始めたのです。話の流れとして、もともと私たちは日本での外国人の労働の話から、日本人移民がブラジルやペルー、ボリビアパラグアイなどに渡った歴史の話をしていました。その時、彼は「自分の親戚が日系人で顔がアジア人の顔をしてる。目がこんな風で」と言い、つり目ポーズをとりました。以前にも数回彼がアジア人の話をするときにつり目ポーズをしたところを見たことがあったため、「そのポーズ、アジア人の前でしないほうがいいよ」といったところ、唖然の表情。まったく差別的な意味合いが含まれていると知らなかったと言いました。

実際、つり目ポーズで問題を起こすのはラテン系の人が多い気がします。そして誰もが「知らなかった」、「親しみをこめてやった」というのです。

 

中南米は差別的か

ネットを検索すると、中南米はアジア人に対し差別的とのコメントが多いです。ただ、私の感覚としては、中南米で差別されたことは一度も?ありません。(あったかもしれませんが、忘れました)これまで、ブラジル、チリ、アルゼンチン、ウルグアイエクアドルボリビア、メキシコ、ペルーなどに留学、仕事、駐在してきていますが、一度も侮蔑的な言葉を投げかけられたことがなく、欧米や豪州、特にフランスで受けたような明らかに悪意を持った人種差別を体験したことがないのです。欧米や豪州では、オーストラリア、スペイン、フランス、イギリスなどに住み、計30カ国ほど旅行しましたが、先進国ほど差別的だと思いました。

中南米は人種が混じりに混じった社会。肌の色、目の色、髪の色は違ってて当然で、兄弟間でも隔世遺伝により、白人、褐色等とぜんぜん違う顔をしています。そんな彼らにとって、人種は差別するものではなく、純粋に区別するものなのです。そんなこというと、「区別そのものがいけない」といわれるかもしれません。ただ、その考え方は非常に英米的です。

 

差別撤廃方法の違い

差別をなくす方法について、日本人は、「すべての人を同じように扱う」と考えがちです。例えば、スチュワーデスをフライトアテンダントと呼び、男女差をなくす。ビジネスマンをビジネスパーソンと呼び、男女差をなくす。などなどの言葉の変換が代表的でしょう。この方式は英語を真似した結果生まれた差別撤廃の方法です。この差別撤廃の方法を仮に「統合型」と呼びます。

では、ラテンアメリカはどうでしょう。実は、スペイン語ポルトガル語を使用する言語圏は、「統合型」の差別撤廃を行っていません。「区別型」の差別撤廃を行っているのです。例えば、Jefe(ヘフェ)という単語、上司という意味の単語ですが、元来この1語で男女包括していました。ただ、この区別型の差別撤廃により、新たにJefa(ヘファ)という女性形が誕生しました。つまり、男性形若しくは女性形で男女どちらも包括している単語を徹底的に男性形、女性形と分けていったのです。

つまり、英米型の差別撤廃方法「統合型」は何でも区別を曖昧にすること、ラテン型の差別撤廃の方法「区別型」は何でも区別することなのです。

それが日常生活にも現れます。中南米では、アジア人をチノ(中国人)と呼びます。アメリカ人をグリンゴアメリカ兵、メキシコから出て行け!!という意味のGreen Go(out)から派生)、黒人をネグロ(黒)と呼び、白人をブランコ(白)、褐色はモレノ(褐色)と呼びます。太った人はゴルド(デブ)とよび、やせた人にはデルガド(やせっぽっち)、アジア人にはつり目ポーズをするのです。徹底的に区別していった結果、身体的特徴や国籍などを露骨に使い、全員を平等に区別していくのです。一方で、その身体的特徴を現すジェスチャーや言葉は怒ったときには武器に変わります。その為、サッカーの試合などでつり目ポーズを侮蔑の意味で使うということもおきてしまうわけです。

つまり、中南米の人々が普段区別するために使う言葉に関してはまったく他意はなく、彼らが心から誰かを下に見ているということはまれなのです。その点、ヨーロッパで差別的なニュアンスを含む「中国人!」などの言葉を投げかけられるのとはわけが違うと思います。ただ、それを知らない欧米人は、区別することを差別と捉えます。その捉え方が、中南米の人と欧米人では異なっているわけです。ちなみに日本では区別=差別の図式が最近急速に広がってきたと思います。とりわけ「男女の区別」に対す過剰反応が「言葉狩り」や「魔女狩り」を想起させるほどです。ちなみに私は統合型の差別撤廃、区別=差別の図式を頭にできる限りの平等を普段心がけて生活しています。

 

終わりに

頭で中南米の区別=差別撤廃とわかっていてもつり目ポーズなどを目の前でさせると、なかなか傷つかずにいるのは難しいです。ですから、親しい人が私たちが差別だと感じる言動をとったとしたら、やさしく教えてあげるのが良いかもしれません。